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教室に戻ると、私は机に掛けておいた鞄を後ろ手に持ち、素知らぬ顔で廊下を走った。
何をやっているんだろう、と自問する。転校二日目に学校をサボるなど、あってはならないことだ。
私は特段優等生という訳では無かったが、前の学校で理由も無く授業を抜け出たことなど無かった。きっと先生にも親にも心配をかけるだろう。
だけど……。
「ここ! このお店、前から行きたかったの」
裏門で待ち合わせていた柚木さんが、パンケーキが映ったスマートフォンの画面を見せてくる。無邪気に喜んでいる彼女の姿を見ると、なんだかそんな不安も吹っ飛んでしまった。
私たちは電車を乗り継ぎ、よく雑誌に掲載されているというそのお店にやってきた。
休日は長者の列らしいが、平日はそこまでではなかった。少し並んで中に入ると、ウッド調のかわいい店内が私たちを出迎えた。メニューには女の子にとっての夢の食べ物のような、フルーツと生クリームが満載のパンケーキが並んでいる。
「……タイムリープの中で、ここに来たの何回目?」
「一回目!」
柚木さんの目が輝いている。彼女の『十月六日』の一番になった気がして、なんだか誇らしい気持ちだ。
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