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王間を出た韓栄を張明が追いかけて呼び止める。
「韓栄」
振り返る韓栄は少し驚いた顔をする。
「丞相、何でしょうか? 」
「韓度から来た手紙、見せてみろ」
張明は韓栄が何かを隠している事を見抜いていた。韓栄は首を竦める。
「流石、神童と呼ばれた丞相ですね」
韓栄は張明に綺麗に折り畳んだ文を手渡す。彼は文を受け取ると眉を寄せて文をなぞった。全ての文字に目を通した後、彼女に文を返す。
「降伏せぬならお前だけでも呂に寝返れと書いてあるな」
韓栄は呆れた顔の張明を気まずそうに見つめる。
「何故隠した、後々何か遭った時疑われるのが目に見えているだろう? 」
韓栄は素直に頭を下げる。
「申し訳ありません。楊彪様に心配をさせると思ったのです」
「黙っていた方が心配するだろう」
「そう思います、軽率でした」
「で、隠していたということは、呂に寝返る算段でもあるのか? 」
「まさか、ただ彼の思惑が読めないだけです」
「肉親に刃を向けたくないのではないか? 月並みだがな」
「いいえ、私と兄上は幼い頃から冗談抜きで仲が悪いですから」
韓栄はきっぱりと否定する。彼女が言うように、彼等兄弟の間に肉親の情などという高尚なものはない。言うまでもなく韓度が呂に降ってからは絶縁状態だ。
「普通に考えれば、彼が私を自国に呼び寄せる事はあり得ないのです」
韓栄は兄の考えが解らず余裕無さそうに苛立つ。
この私が兄上に出し抜かれるなんて、二度とあってはならない……!
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