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「で、あの男はお前に何の用事で来たんだ?仮にも敵国だぞ」
董亮が神妙な顔で尋ねる。
「……降伏勧告と……私を呂国に誘いをかけに来たわ」
朱循は想定外の答えに目を見開く。反面、董亮は黙って彼女の次の言葉を待つ。
「お? 随分物騒な剣幕だったがやっぱり妹と争うのは嫌なのか?」
「違うわ、兄は私を呂の君主に差し出す気で来たの」
董亮の表情が険しさを増す。
「……君主と親戚になって自分の立場を安定させる魂胆か」
韓栄は首を横に振る。
「それもあるけど……おそらく私を軍師として無力化したいんだわ。彼は昔から、私が学問をするのを快く思って無かった。私の方が優秀だったのよね」
「嫉妬で歪んだまま育ったという訳か」
「暗い男だな韓蓋軍師の息子の癖に」
「そう、だから父上の名を穢すような真似は……私が許さない」
韓栄は拳を固く握り締める。
あれだけ啖呵を切ってしまえば、当然何か抱腹がある。昔は自分の方が優秀だったとはいえ四年であの軍事大国の最高軍師になれる実力は本物だ。決して油断はできない。
ふと董亮が韓栄の頬に触れる。
「!?」
ピリッとした痛みに彼女が顔を歪めると、董亮は申し訳無さそうに陰を落とす。
「傷になっている……手荒になってしまったな」
先程韓度に突き飛ばされた時に彼女の美しい顔には大きな擦り傷が出来ていた。
「あぁ……平気よこのくらい」
「痛々しいが、悪くない顔だぜ」
朱循の言う様に血の滴は、皮肉な事に気丈な表情に良く映えた。
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