繊手は兄御に囚われる～女軍師韓栄の物語②～

第一章

韓栄の前に女性が現れる。歳は韓栄と同じくらい。雪のように肌が白く眼は透き通る茶の色。しかし表情にどこか翳りがある。韓栄はその顔を知っていた。
「胡翠！」
叫び声を上げて飛び起きる。そこに彼女は居なかった。夢である。
「思い出してしまったわ……」
韓栄は半身を起こしたまま頭を抱える。
「顔を洗わなければ……」
韓栄は独り言を言ったあと、青琴に水桶を持って来させた。水桶を用意した後彼女は扉を叩き、韓栄が返事をするとなるべく音を立てないようにゆっくり扉を開けた。
「韓栄様、顔色が良くないですよ？」
青琴は心配そうに韓栄の顔を覗き込む。
「大丈夫よ。少し夢見が悪かっただけだから」
韓栄は蒼白な顔をしながらも、無理矢理笑顔を作り彼女を追い出した。
胡翠は青琴の前に韓栄の小間使いをしていた女性だ。年齢は韓栄と同じくらいで本物の姉妹のように仲が良かった。
しかし理由があり、韓栄自ら解雇を言い渡したのだ。