38人が本棚に入れています
本棚に追加
二章
ことは四年前に遡る。もう既に父韓蓋は病に臥せっており、韓度はまだ李国の官吏として働いていた。
胡翠は特に聡明では無かったが、気が優しく可愛らしい女性だった。彼女が「韓栄様」と鈴を転がす様な声で呼ぶと、愛想の無い韓栄ですら自然と顔が綻んだ。
ある日、韓栄は韓蓋から彼の室に来るよう命じられた。言われた通り参上すると、韓蓋は寝台から起き上がり、韓栄に厳粛な声で言う。
「韓栄、お前に縁談の話が来ている」
「……そうですか」
韓栄は当時一七歳で、適齢期の後半に差し掛かっていた。しかし彼女の顔は明るくない。どこか諦めたような冷めた目で話を聞いていた。
「夏侯家の優という男でお前とは四つ歳が離れている。夏侯家は私も昔から懇意にしているし、優殿も人柄も良く素晴らしい相手だ」
「それは、楽しみです」
彼女は口先だけで返事をする。会ったこともない人間が良い人だと言われてもピンとこない。父はそんな彼女を一目で見抜いた。
「乗り気でないだろう」
「……っ」
「顔を見れば分かる、気が進まぬのなら無理にとは言わん。ただ、父の顔を立てて一度会うくらいは構わないだろう」
韓蓋はそう言った後苦しげに咳き込む。韓栄はその姿にどうにも弱かった。
「分かりました。会うだけなら構いません」
韓蓋は不敵に微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!