二章

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二章

ことは四年前に遡る。もう既に父韓蓋(かんがい)は病に臥せっており、韓度(かんど)はまだ李国の官吏として働いていた。 胡翠(こすい)は特に聡明では無かったが、気が優しく可愛らしい女性だった。彼女が「韓栄(かんえい)様」と鈴を転がす様な声で呼ぶと、愛想の無い韓栄ですら自然と顔が綻んだ。 ある日、韓栄は韓蓋から彼の室に来るよう命じられた。言われた通り参上すると、韓蓋は寝台から起き上がり、韓栄に厳粛な声で言う。 「韓栄、お前に縁談の話が来ている」 「……そうですか」 韓栄は当時一七歳で、適齢期の後半に差し掛かっていた。しかし彼女の顔は明るくない。どこか諦めたような冷めた目で話を聞いていた。 「夏侯(かこう)家の(ゆう)という男でお前とは四つ歳が離れている。夏侯家は私も昔から懇意にしているし、優殿も人柄も良く素晴らしい相手だ」 「それは、楽しみです」 彼女は口先だけで返事をする。会ったこともない人間が良い人だと言われてもピンとこない。父はそんな彼女を一目で見抜いた。 「乗り気でないだろう」 「……っ」 「顔を見れば分かる、気が進まぬのなら無理にとは言わん。ただ、父の顔を立てて一度会うくらいは構わないだろう」 韓蓋はそう言った後苦しげに咳き込む。韓栄はその姿にどうにも弱かった。 「分かりました。会うだけなら構いません」 韓蓋は不敵に微笑んだ。
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