二章

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韓栄と韓度は当時からあまり仲が良くなかった。 女の癖に幼い頃から兵法書に興味を持ち、合理的でこましゃくれた物言いをする韓栄がどうも韓度には可愛いと思えない。女らしい刺繍や生花を母上に習わせた事もあったが、啄むようにやってはみても結局兵法書を穴が空くほど読んだり囲碁で客人を打ちのめしたりする方が性に合っていたらしい。同僚なら頼もしいが、妹なら目の上のたんこぶである。 更に気に入らないのはそれを父がそれを好意的に見ていた事だ。兵法書は兄より早い期間で暗記したし、七つも歳が離れているのに囲碁では勝てた事が無かった。 韓栄も韓度が自分のことを疎ましく思っている事は何となく察しており、自分から話しかけることはほぼ無い。 そもそも血が繋がっているとは思えぬほど互いに愛着が湧かなかったが、ある日決定的に二人の仲に溝が出来た。 韓度が成人したばかりのある日。韓蓋が韓栄に「お前が男だったら、兄を超える軍師になれたかもしれまいな」という言葉を聞いてしまったのだ。父はあろう事か長男の自分より妹の韓栄の方が優れていると思っていた。 自尊心が激しく傷付き、腸が煮えくり返りそうだった。彼は天才では無かったが、自分なりに努力して将来有望と言われるまでになっていたのだ。それなのに趣味の範疇で学問をする妹に劣る敗北感は計り知れない。 その日を境に、韓度は韓栄に対する兄としての情は完全に消え失せてしまった。
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