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とある大陸に位置する李国には、女軍師がいる。名は韓栄、李国唯一の女性官吏だ。切れ長のつり目で琥珀色の瞳、やや細身の瓜実顔で人形の様な美貌を持つ女軍師である。
この軍師、顔も頭も良いが少々癖のある性格で、自信家で皮肉屋で嫌味を言うことなら右に出る者はない。そんな彼女と宜しくするには寛大さが必要だ。
ある日韓栄が宮中の廊下を歩いていると、李国君主の楊彪が陽気に声をかけた。彼の崇高なる人徳たるや韓栄なんぞ足元にも及ばない。そもそも前例のない女官吏の登用を許した彼は、寛大の権化と言ってよい。
「いい所にいた。韓栄、朗報だ」
韓栄は振り向いて首を傾ける。
「なんです楊彪様」
「今度、お前の仲間が入って来るぞ」
「私の仲間……?」
ピンとこない彼女に楊彪は勿体ぶって答える。
「女の官吏だ」
韓栄は形の良い眉を上げる。
「あら、私以外にも酔狂な人が居たんですね」
「ああ、武琳という。武官としての登用だ」
初の女武官だ。韓栄の瞳がきらりと輝く。
「武官、興味深いですね!」
「ああ、武統の娘が男顔負けの長刀使いと評判でな。実際会ってみたら想像以上に優秀そうだったからうちで働いてもらうことにした」
つまり多くの官吏が通る受けなければならない採用試験をせず、推挙による登用という訳だ。李国の官吏登用試験は現段階では女性は受けられない。韓栄と同様少々反感を買う事は目に見えているが、お互いそれを承知で主従関係を結んでいるのだ。
「楽しみですね」
楊彪は韓栄の言葉を嬉しそうに聞く。
「同じ女官人同士、仲良くしてくれよ」
「……それは相性次第ですね」
彼女は君主に対してもふてぶてしい。
「流石女軍師、一筋縄じゃいかんか」
慈愛溢れる楊彪は気にする風もなく愉快そうに笑い声を上げた。
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