二章

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胡翠は韓栄の室を出た後、その場に座り込む。手で触れると、顔に熱を帯びているのが自分でも分かった。 何て、魅力的な方だろう! あの優しそうな顔、逞しい身体、声も柔らかく耳をくすぐられる様だった! あの方の「美味しい」という声が何度も頭を反芻する。 「どうしよう……」 一目惚れしてしまった。韓栄様の、婚約者に。胸のときめきとともに罪悪感が身体を駆け巡る。こんな感情、許されないのに。 「いい男だろう、夏侯優殿は。父上もいい人に話を持ってきたじゃないか」 胡翠は突然頭の上から聞こえる声に驚く。 「韓度様! ……はい、韓栄様にぴったりの方ですね」 耳の上から悪魔は囁く。 「え? 君の方が似合いだと思うけど。あいつ見たいな女らしさの欠片もない女は夏侯優殿には可哀想だ」 胡翠の顔が火を吹く様に朱みを増す。 「そ、そんな事ありませんよ! 大体立場が全然違いますもの!」 「立場は似合うかどうかに関係ないじゃないか、ろくに笑いもしない韓栄なんかより、胡翠の方が愛されると思うよ」 「かっからかわないでください!」 ムキになって否定する胡翠をあしらう様に韓度はその場を後にした。 「韓度様の言う事なんて、戯言何だから……」 胡翠は独り言い聞かせる様に繰り返した。
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