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夏侯優は若いが才に溢れ、既に将軍の副官を務めていた。当時軍師だった韓度とは元々顔見知りである。
「夏侯優殿」
「韓度様、先日はどうも」
宮中を歩いていた夏侯優は、笑顔で近づく韓度に爽やかに笑いかける。
「妹は面白みがない女だっただろう?」
「そんなことはありません、聡明で美しい女性でした」
「小さい頃から父上にくっついて兵法書を読み耽る可愛くない女だよ」
夏侯優は目を丸くする。
「兵法の話が出来るのか、彼女と結婚したら仕事の助言が貰えるかもしれない」
どうやら頭が温い人種らしい。韓度は内心唾を吐く。
「仕事に口を出されるのは嫌だろう」
「私はそうでもありませんが」
「そうかい? 例えば、官吏になりたいと言い出したらどうする?」
夏侯優は突拍子のない質問に驚く。
「官吏ですか……でも彼女にその才があるなら応援するべきでしょう」
韓度は表情を消して相槌を打つ。
「本当に寛大だな貴方は……ちなみに妹の小間使いには会ったかな? 胡翠というのだが」
「お会いしましたよ、彼女も可愛らしいですね、派手ではないが、素朴で優しそうな娘だ」
彼の顔が少し紅潮するのを、韓度は見逃さなかった。
「……妻にするにはああいうのが向いているんだがな、本当は」
夏侯優は苦笑する。
「はは、確かにあの娘は男を癒してくれるでしょうね」
「そう、仕事に疲れた貴方の帰りを甲斐甲斐しく待っている……想像出来ないか?」
「……どうでしょうか」
夏侯優は返答に困りつつも、まんざらでも無さそうだ。
「そうだ、今度お伺いする時、韓栄殿に簪でも贈ろうと思いますが如何でしょう?」
「ああ、喜ぶと思う。一応女だしな」
本当は兵法書の方が喜ぶが。
「そうですか、それなら選んで持って行きましょう」
韓度ははにかむ夏侯優に一言付け加える。
「もし良ければ、胡翠にも何か持って来てくれないか?」
夏侯優は快諾する。
「良いですよ、揃いの簪が良いでしょうか?」
「いやいや、それだと値が張るだろう。揃いの簪なんて韓栄も拗ねてしまう。その辺の野花で良いんだ」
「野花……ですか?」
「ああ、胡翠は野花が好きだからきっと喜ぶ」
「そう言えば彼女は蒲公英みたいな女性だと思ったんです」
「蒲公英! 彼女は一等それが好きだ」
「それなら、春ですし蒲公英でも摘んで行きましょうか」
韓度は狙い通り、とほくそ笑んだ。
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