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「韓栄、夏侯優殿はどうだ?」
二回程会ったのを見計らい、韓蓋が尋ねる。
「……とても良い方だと思います」
韓栄は無難な言葉を選ぶ。
「夏侯優殿を愛せるか?」
「……まだ分かりかねます」
韓蓋が更に踏み込んで聞いてきたので韓栄は正直に答える。あの人の妻になる事が嫌だとは思わない。しかし愛せるか、というと返答に困る。
確かに彼と話すのはそれなりに楽しいし褒められると嬉しい。ただ、この人に恋愛感情を持っているという感覚は無いのだ。そんな感情知らないのだから、反論の余地がないが。
「まぁ正直な話、人は概ね生理的に無理とかでなければ後々愛情は芽生えてくるものだ。それよりお前にとっての益の面から話をしようか」
「益……ですか」
「夏侯家は、お前に戦局を読む才があると分かれば、お前を好意的に迎えてくれる可能性がある」
韓栄が身を乗り出す。
「どういうことでしょうか?」
「お前が官人として李国で働けるかもしれんという事だ。夏侯という後ろ盾を持って」
韓栄の胸がこれ以上無いくらい疼く。心なしか声が震えてしまう。
「でも、私は女です。女が宮中で働くなら、芸妓になるより道は無いのでは」
「韓栄、今の君主の楊彪様は才ある者は身分も家柄も区別しない。ならば性別も区別しないと期待できる」
「それは……あくまで期待ですよね」
「如何にも。しかし私が楊彪様の下で働いた日々を鑑みれば、賭ける価値はある」
「父上……本当ですか」
韓蓋は答える代わりに質問を返す。
「官人になりたいか?」
韓栄は少しの逡巡の後答えた。
「……なれるものなら」
韓蓋は一呼吸置いて尋ねる。
「その為に夏侯優殿の妻になれるか?」
韓栄は一度目を閉じて考えた。
「……なれます」
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