二章

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胡翠はそっと韓栄の室を出た。 流石の私も信じられない。官人になりたいから結婚するだなんて、夏侯優様を利用するという事じゃない。 「どうしたんだい、胡翠」 「韓度様、いえ何でもありません」 胡翠の言葉は素っ気なく誰とも話したく無さそうだったが、敢えて韓度は会話を続けた。 「韓栄が結婚を決めたそうじゃないか」 胡翠は無感情に言った。 「はい、喜ばしい事です」 「夏侯家は兵法が好きな跳ねっ返りにも好意的らしいから上策だろう」 胡翠の肩が跳ねる。 「胡翠、気になる事でもあるのかい」 韓度に優しく尋ねられ、胡翠は魔が差した。 「それが……韓栄様の結婚の理由が少し気になっていて……」 「理由、どうせ他に貰い手がないからとかだろう?」 「夏侯優様と結婚して、官人になりたいと仰られたのです」 韓度は大袈裟に驚いた顔をする。 「官人! あいつが!」 「夏侯家に嫁げば、官人になれるかもしれないからと仰ってました。でもそんな理由……」 「不純だと思うかい? でも多くの結婚の理由なんてそんなものだよ、権力を得る為だとか、何らかの利害関係を鑑みて結び付くものだ」 女の意思が関わるのは珍しいが、恋愛結婚の夫婦なんて極めて稀だ。 「そんなこと分かっています! でも、私はそんな考え方は嫌いだし、韓栄様にそんな事考えて欲しく無かった……」 胡翠は最後まで言ってハッと口を噤む。そして「出過ぎた事を申しました」と謝罪するが韓度は構わないと首を振った。 「まぁ、性格が男っぽいからね。本当に可愛げがないよ昔から」 韓度は舌打ちをする。 「胡翠、この前も言ったけど、夏侯優にはきっと韓栄より君の方が合っているよ。だって君の方が彼を愛しているだろう?」 胡翠は戸惑いの色を見せたが、気持ちを察せられていることもあり、やがて小さく頷いた。 「はい、私は夏侯優様を愛しています、一目見た時から」 韓度は胡翠の華奢な両肩を抑えた。 「まだ結婚は決まりじゃないよ」 「でも、夏侯優様は韓栄様を気に入ってらっしゃいます」 「夏侯優に目を覚まして貰えば良いんだ。妻選びは能力で選ぶものではない。より愛してくれる人と添い遂げた方が幸せだと。胡翠、君次第だが」 韓度は胡翠の耳元に口を寄せる。 「……わかりました」 韓度は内心たわいもないと嗤う。やはり痴情の縺れは利用し易い。
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