二章

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「韓栄、ご機嫌いかがかな」 韓栄は突然話しかける兄を警戒する。 「……良くも悪くもありませんね」 「どうだ、久しぶりに碁でも打たないか」 「碁を……?」 負けず嫌いの韓度はいつからか碁を打ちたがらなくなった。それなのに今になって何故。韓栄の顔が険しさを増す。 「久しぶりに妹と遊ぼうと思っただけだろう。そう怖い顔をするな」 韓度の笑顔は気味が悪かったが、韓栄は大人しく従った。 兄の部屋に入るのは何年ぶりだろうか。足を踏み入れると檜の香りが鼻を掠める。 韓度が部屋の隅にあった碁盤を持ち出し、二人は正面に向き合う。 「お前の方が強いから白だな」 韓度が嫌味な口調で白石を押しやるのを韓栄は無言で受け取る。 韓度の一手。パチンという小気味良い音が部屋に響く。続けて韓栄が白石を盤に乗せる。 十手程差した所で、韓度が打ちながら妹に話を始める。 「十年近く打ってなかったな」 「はい、兄上は私と碁を打ちたがらなくなりましたから」 「お前に負けるのは口惜しかったからね、避けるようになってしまった」 「もう負けても口惜しくないのですか?」 「口惜しいさ。ある意味子供の頃より口惜しいかもしれない」 「まぁ、私が勝ちますが」 「相変わらずふてぶてしい」 二人は間髪入れず攻撃的に石を置いていく。 「韓栄、一つ聞きたい事があるんだが」 「何ですか?」 「女に生まれた事を、後悔しているかい?」 「……別にしてませんよ。性別が如何だろうが私は私です」 「しかし、お前はこうやって戦局がどうとか考えるのが好きだ。官人となって折角読んだ兵法の知識を使ってみたいと思う事はあるだろう」 「……否定はしませんね。しかし知識の使えないと決まった訳ではありませんから」 「引っかかる物言いだな」 「……」 韓栄は眉を吊り上げる。 「韓栄、僕はお前を可哀想だと思っていた」
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