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その日韓栄は董亮と帰宅を共にした。茜色の夕陽が二人の顔を控えめに照らす。
「機嫌がいいな」
「そう?」
董亮は韓栄の僅かな表情の差に気づく。感情を悟られるのが嫌いな彼女だが、彼だけは例外らしく穏やかな微笑みを向けた。
「悪くない娘だったわ」
「武琳のことか?」
「ええ、実力もあるようだし、おそらくあの娘は少々じゃ折れないわ」
「お前と同じだな」
「力じゃ敵わないけれど」
韓栄が苦笑していると小石に躓き前につんのめる。
「あっ」
「おっと」
董亮が間一髪韓栄の腕を掴み抱き留めた。背後に董亮の広い身体の暖かさを感じ、鼓動が早くなる。
「失策か?」
董亮は破顔した。韓栄は照れて視線を逸らす。
「……もう離してもらって大丈夫よ」
すると彼は意外な一言を投げる。
「……勿体無いな」
「何が?」
「せっかく腕が完治したからな。もう少し、このままで」
董亮の腕は先日医者から、完治を言い渡された。もう戦場を猛虎のように駆け回る事ができる。
韓栄は彼の腕の中で小さくなり、蚊の鳴くような声で文句を言う。
「急に言うのは狡いわ」
「人前でないから問題ない」
董亮は機嫌良さそうに抱き締める腕に力を込める。 ……まあいいか。韓栄は身体の重心を彼に預け目を閉じる。しかし夢が醒めるのは一瞬だ。
「韓栄さまだー! おかえりなさーい!」
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