第一章

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その日韓栄は董亮と帰宅を共にした。茜色の夕陽が二人の顔を控えめに照らす。 「機嫌がいいな」 「そう?」 董亮は韓栄の僅かな表情の差に気づく。感情を悟られるのが嫌いな彼女だが、彼だけは例外らしく穏やかな微笑みを向けた。 「悪くない娘だったわ」 「武琳のことか?」 「ええ、実力もあるようだし、おそらくあの娘は少々じゃ折れないわ」 「お前と同じだな」 「力じゃ敵わないけれど」 韓栄が苦笑していると小石に躓き前につんのめる。 「あっ」 「おっと」 董亮が間一髪韓栄の腕を掴み抱き留めた。背後に董亮の広い身体の暖かさを感じ、鼓動が早くなる。 「失策か?」 董亮は破顔した。韓栄は照れて視線を逸らす。 「……もう離してもらって大丈夫よ」 すると彼は意外な一言を投げる。 「……勿体無いな」 「何が?」 「せっかく腕が完治したからな。もう少し、このままで」 董亮の腕は先日医者から、完治を言い渡された。もう戦場を猛虎のように駆け回る事ができる。 韓栄は彼の腕の中で小さくなり、蚊の鳴くような声で文句を言う。 「急に言うのは(ずる)いわ」 「人前でないから問題ない」 董亮は機嫌良さそうに抱き締める腕に力を込める。 ……まあいいか。韓栄は身体の重心を彼に預け目を閉じる。しかし夢が醒めるのは一瞬だ。 「韓栄さまだー! おかえりなさーい!」
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