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二人の身体が芯まで凍る。あの空気の読めない、いや読まない真っ黄色の声、韓栄の小間使いの青琴だ。頭の左右に団子を二つ付けた彼女は、喜色満面の顔で駆けてくる。わざとだ。
「韓栄さま、見ーちゃった見ーちゃった!」
二人は無言で離れる。
「この時間に何してるの貴女」
「お買い物ですよー! この人、もしかして韓栄さまの好きな人? もう良い人になった?」
要らん事を言いやがってからに!
「青琴!」
遂に韓栄が絹を裂くような叫び声を上げた。董亮が震える指で青琴を指す。人を指で指すなんて余程動揺しているらしい。
「韓栄、彼女は」
「私の家の小間使い、騒がしい子で恥ずかしいわ」
「酷ーい! 結構頑張り屋なんですよ!」
青琴はわざとらしくほおをぷうと膨らませる。全然可愛くない。
「人をおちょくるのを頑張る屋なの」
韓栄が溜息をつきながら説明する。董亮が律儀にも引き攣った顔で「私は董亮、宜しく」と自己紹介すると、青琴は瞳をキラキラさせて董亮に詰め寄った。
「男らしくて格好いい! 愛想貧乏の韓栄さまには勿体無いんじゃないですか?」
「ううう煩い!」
董亮は、嵐のように捲したてる青琴と我を忘れて怒鳴り散らす韓栄について行けずただそこで置物になっている。
「董亮さん! 今度遊びに来てね! 皆んな喜びますから」
青琴は手をぶんぶん振る。
「ああもう! 早く帰るわよ! 董亮、御免なさいまた明日!」
韓栄が強引に青琴を引っ張る。全くこのちんちくりんが!
「韓栄さまに仕事以外の恋人が出来るなんてやっぱり驚いたなー」
韓栄は生意気な小童を睨む。
「本当減らず口ね、お前は」
「でも、お似合いですよ、纏う空気が同じだった」
青琴が声を弾ませて言った。
「……それを言ったら許すと思うな」
韓栄の声は僅かに上擦っていた。
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