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「楊彪様、お話が」
いつにも増して神妙な顔の韓栄に楊彪も襟を正す。隣に控える丞相の張明も老獪な眼を光らせる。
「どうした?」
「呂国の韓度から、私宛ての文が来ました」
二人は同時に背筋を正す。
「韓度……それは只事ではないな」
楊彪達は、韓度が韓栄の父韓蓋の息子、つまり彼女の血の繋がった兄である事を知っている。張明が冷静に問う。
「兄上は何と言っていたんだ、韓栄?」
韓栄は表情を変えずに言う。
「……呂国に降れと」
「無理な相談だな」
楊彪は跳ね除ける様に即答する。一度は民のためならそれも構わないと言った彼だが、もう抗戦を決めたので揺らぐ事はない。
「公式な回答が必要な文か?」
「いいえ。印も無く、あくまで私に個人的に送られた文です」
楊彪は張明と顔を見合わせ益々顔を顰める。韓度の腹を量りかねているのだろう。
「答えは否と送ってもよろしいですか」
「そうしてくれ」
韓栄が事務的に聞くと楊彪は即答した。
「かしこまりました」
張明は二人のやり取りを黙って見送る。韓栄は楊彪の返事を承知したものの表情を曇らせたままで、それを見逃す丞相ではなかった。
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