第一章

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「楊彪様、お話が」 いつにも増して神妙な顔の韓栄に楊彪も襟を正す。隣に控える丞相の張明(ちょうめい)も老獪な眼を光らせる。 「どうした?」 「呂国の韓度から、私宛ての文が来ました」 二人は同時に背筋を正す。 「韓度……それは只事ではないな」 楊彪達は、韓度が韓栄の父韓蓋(かんがい)の息子、つまり彼女の血の繋がった兄である事を知っている。張明が冷静に問う。 「兄上は何と言っていたんだ、韓栄?」 韓栄は表情を変えずに言う。 「……呂国に降れと」 「無理な相談だな」 楊彪は跳ね除ける様に即答する。一度は民のためならそれも構わないと言った彼だが、もう抗戦を決めたので揺らぐ事はない。 「公式な回答が必要な文か?」 「いいえ。印も無く、あくまで私に個人的に送られた文です」 楊彪は張明と顔を見合わせ益々顔を顰める。韓度の腹を量りかねているのだろう。 「答えは否と送ってもよろしいですか」 「そうしてくれ」 韓栄が事務的に聞くと楊彪は即答した。 「かしこまりました」 張明は二人のやり取りを黙って見送る。韓栄は楊彪の返事を承知したものの表情を曇らせたままで、それを見逃す丞相ではなかった。
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