幼年期

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「大量大量」  前世ーースカーレット・オーギュスの記憶を思い出して二年が過ぎ、7歳になったスカーレットは鼻歌混じりに森を歩いていた。  スカートではなく男の子が着るズボンを履いて。  癖毛にうねる赤い髪は首の付け根で無造作に一つに紐で縛って、肩には後ろ脚を蔓で縛った逆さまの兎を三羽掛け、逆の手の先にはスカーレットと大して大きさの変わらない猪が縄で縛られた状態で引きずられている。  小柄な10歳にも満たない少女が自身と同じ大きさの猪を引きずっている光景は見慣れない人間が見ればさぞかし異様だろう。  スカーレットの周り、村の人間たちにとってはすでに見慣れたいつもの光景になってしまっているが……。  村の入口まで戻ると、知らない人間がポカンと口を開けてこちらを見ていた。  役人らしき小綺麗な出で立ちの大人の男二人。  傍らには痩せっぽちの驢馬が二頭。  スカーレットはそれを見て、近くの町の役人かな?と想定した。大きな街やこの辺りを収める領主に直接仕えるような者たちではないと思われる。  それならもう少しマシな驢馬や馬を使わせてもらえるだろうから。    後で考えてみれば、知らない人間に気づいた時点で道を戻るなり隠れていなくなったのを確認してから戻るべきだった。  けれども村の人間はもはや野生児に限りなく近い農家の少女が猪の一頭や二頭を引きずって歩いていてもおすそ分けで夕飯のおかずが豪華になることを喜ぶことしかしない。  もはや慣れ切っているから。   スカーレット自身も周りがそんなだから自身が端から見れば奇異な、というかありえない真似をしているという自覚が薄い。
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