幼年期

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 100年前の時も今と同じ7歳で猪くらいは狩れた。  あの時のスカーレットは一応下級とはいえ貴族のご令嬢というヤツだったが、所詮は爵位と領地があるだけの貧乏な子爵家だった。 「領地があるなら税収があるだろう」  昔、そうのたまった馬鹿がいた。  返事は口ではなく拳で返した。  領地の税収で優雅に暮らしていけるのは豊かな広い領地を持ち、しっかりと土地の収穫があったり特産品があったりする領地の主である。  それはほとんどが上位貴族が占めている。  稀に下級の子爵家や男爵家であっても立地条件がよろしかったり領主に経済的な手腕があったりすればそこそこ上手く儲けている家はある。    あるにはあるが、稀である。  少なくともスカーレットの家は領地は山と森に囲まれた田舎で、畑に出来る土地も少なければ、特産品といったものもなかった。  ついでに言えば特産品を作り上げるだけの資金も知恵もコネも流通させるための交通の便もなかった。  税収は常に雀の涙。  そこから領地の運営と国への税金に金を出すのだけれどまあ毎年赤字で母親はくつろい物で小銭を稼いでいたし、早くに死んだ兄は兵士として出稼ぎで稼いでいた。兄の仕送りは家計としてずいぶん大きくて、おかげで兄が死んだ後、スカーレットが軍属になり金を稼ぐことになったのだが……。   話が逸れた。  とにかくスカーレットの家は貧乏で、貴族だからと優雅にお茶会だの夜会だの言っていられなかった。その日のごはんも父やスカーレットが狩りや山や森の恵みで調達していたのだ。  もっとも父はスカーレットと違って魔力の多い人ではなかったから、あまり狩りの役には立たなかったけれど。  そんな前世のこともあって、スカーレットの中では自分が「いや、普通ムリだよね?おかしいよね?なんでそんな軽々と猪引きずってんの?」と言われることをしているつもりはなかった。
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