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三年前、俺がダリウス様に準備して欲しいと願った時は、激しく怒られて言った言葉を後悔するほどに責められたのに。
もう、俺には自分で触れたくないのだ――。
気付いてしまった事実に、俺は打ちのめされた。
ダリウス様が俺のアレを手にとり、温かく滑った口腔へ含んだのを感触で知る。エルフラン様の舌は俺の耳の中へ入り込み、耳を味わうようにペロリと内側を一周描く。後ろで縛られた手が指先でシーツを掴む。震えた俺の腰が逃げないように、二人の力が入った。
どれほど力を抜いて感じない振りをしても、身体も心も逃げてしまいそうになる。
「うっ……あ……。もぅ、や、いやだ……」
逃げては、駄目だろうか――。
意識を飛ばすことも感じないようにすることも、未熟な俺の体と心では出来なかった。怪我をしたときに痛みを遮断するのとは違うのだ。あんなに神官長様に教えてもらったのに、俺は自分を制御することができなかった。
逃げたい……、助けて――。
動かせない腕をクリストファーに差し出せば、抱きとめてくれないだろうか――。
それとも――、やはり拒否されてしまうのだろうか。
「ク、クリスさ……ま……」
怖かった。クリス様に助けを求めて、拒絶されることが。
俺の人生は与えられないことを強いられてきた。それが普通だった。
過酷な神学校で頑張れたのは、ただ一度、クリス様が俺に気付いてくれたからだ。暗闇から連れ出し、俺を俺として扱ってくれたから。
実際はローレッタの身代わりでしかなかったけれど、俺はぬくもりを忘れられなかった。
「クリス様……助けて」
強く閉じていた目を開き、カチカチと鳴る歯の奥から必死に声を搾り出した。震える言葉が彼の耳に届いたかもわからない。
ぼんやりと霞む視界に映る瞳はやはり冷たく、俺を見下し、声も無かった。
クリス様に俺の言葉は届かないのだとわかると、心は鉛のように重く、身体は氷のように冷えていく。
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