再会

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 嵐が去ったように静かな部屋の中で、俺はシーツで身体を隠しつつ、恥ずかしくてクリス様から視線を外した。 「ロッティ――?」  説明を求められても俺も困る。話の流れから、どうやらクリス様が勘違いしているのだとわかったが、何といえばいいのだろう。 「ロッティ……」  頬に添えられた手は冷たかった。頬の熱さを冷ますように、心地いいクリス様の手にすり寄った。 「私に言うことはないのか?」  収まったかに見えた怒りは続いていたようだ。こんなに優しく愛撫するような手なのに、固い声で問われると切なくなる。  恥ずかしくて下げていた目線を上げると、先程までとは、目が違った。瞳に揺れるのは怒りではなかった。困惑に愛しさのようなものが混ざっていて、それに励まされるように、ずっと願っていた言葉を音にのせる。強張る顔を必死に笑顔に変えているから、変な顔になっていたかもしれない。 「俺の名前を呼んでください――。俺はロッティじゃない、ルーファスなんです」  あの頃、何度叫びそうになっただろう。ロッティじゃない、ルーファスだと。愛しそうにロッティと呼ぶクリス様の口を口付けで塞いでしまいたかった。  けれど、ロッティと呼ばれるたびに、冷静になれる自分もいた。王太子であるクリス様の身分も、男なのだということも、自分が誰にも必要とされていないことも。 「ルーファス。ルーファスっ!」  クリス様は、何度も俺の名前を呼んだ。腕の中に抱き込まれて、俺はあの頃よりも近くなったクリス様にそっと口付けた。  一瞬驚いたように見えたクリス様は、獰猛な笑みを浮かべたかと思うと、噛み付くように深い口付けを俺に与えた。少々痛みで怯む。それでも俺を求めてくれているのだと思うと嬉しかった。  吐息の合間、背中にまわした手に力を込めて、肩口に額を乗せた。 「もういいです。俺はここにいます……。貴方が望んでくれる間だけ、貴方の愛人に、してください――」  クリス様が望んでくれるのなら、俺はそれでよかったらしい。ローレッタだとか他の女とか、そんなことは身の置き場を考えた自分の保身だったのだ。今は、そんなことがどうでもいいくらい、側にいたかった。  
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