再会

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 今、俺は三年間にあらゆることを与えてくれた教師や友人達に感謝したい。  あの頃は怖かった。王太子の慰み者として生きて、捨てられる。後ろ指をさされながら朽ちるように生きていく人生を。孤独に打ち震える惨めなだけのそんな自分を――。  今は違う。神殿には戻れないかもしれない。でも、俺はきっと一人でも生きていくことが出来る。魚を獲る漁師になってもいい。大好きなお菓子を作って売る人生も楽しそうだ。覚えた体術や剣術があれば、それで身を立てていく事もできるだろう。そう思えばクリス様の側を離れた後も生きていけると覚悟が出来た。  包み込むように抱く手が、俺を引き離そうとするのを感じて、俺は唇を噛みしめた。  俺の覚悟が重かったのもしれない――。クリス様が望むのは、俺の心からの愛情とかではなく、もっとドライな関係だったのだろうか。  そっと身を引き、傷ついた瞳を隠す事も出来なかった俺をみて、クリス様は唖然とした口調で訊ねる。 「何も聞いていないのか――?」  誰から――? という疑問すら出ない。あの二人しかいないではないか。父の死ですら、今日聞いたというのに。俺に情報を全く渡さなかった二人に思わず呪いの言葉を吐きたくなるのは仕方がないだろう。 「クリス様。もう、俺はいりませんか――?」  みっともないくらいに声が震えた。指先でクリス様の胸を叩く。その心の内が知りたかった。 「違うっ! 既にお前は……私のものなんだ――」  クリス様は、苦しそうに息を吐き出した。  俺はもうクリス様のものになる気持ちで一杯だったが、どうもそれとは違うらしい。 「お前は私の妻なんだ――」  スッと視線を外して、クリス様が告げた言葉に困惑した。 「は? 妻……?」  間抜けだった――。そこは嬉しい! とかそんな風に言うべきだったと後で思ったが、既に俺の許容範囲は超えていた。
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