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そうだ、同性の結婚の場合右側に名前を書くのが妻だったと、学校の授業にならったことを思いだした。
いやいや、王太子は、同性との結婚を認められていない。
「俺は男ですけど――?」
見なくてもわかるが、俺は思わずシーツの前を開けて、自分が男だと確認した。
「わかっている。今度、リーエントの誕生日に王太子は譲る事になっているんだ。少し早いが、それを伝えて神殿には認めさせた」
俺に何も言わずに、戸籍を移動したことを、気まずいと思っているようで、クリス様は俺を見ない。
「で、あの……リーエントってどなたでしょう?」
とても聞きにくいが、これ以上混乱したくなかったので、思い切って聞いてみた。
「それも聞いていないのか――」
クリス様は自嘲気味に笑い、唇に軽く口付けをして俺を抱き上げた。
「私達は、少し話をしたほうがいいようだ」
あの頃とは違って軽くない俺を抱き上げても、歩みは緩まなかった。
「扉を開けて――」
俺を横抱きにしているから、クリス様の手は塞がっていた。俺は言われたまま扉を開けた。いくつか扉をくぐると、そこはお風呂だった。
「気持ちが悪いだろう。身体を洗ってくるといい。一緒に入って洗ってやりたいのは山々だが、なし崩しに抱きたくない。お前が、大事なんだ――」
色々と突っ込みたい気分だったが、何も言わず頷いた。
「もう酒も飲める歳だったな。用意しているから……」
微笑んだクリス様の顔は、何かが吹っ切れたような爽やかな笑顔だった。
身体をいつも以上に丁寧に洗って、用意されていた夜着に着替えた。ここに来たときと変わらないものだが、綺麗に畳まれていて、新しく用意されたもののようだった。上にガウンを羽織ると、鏡に映る情けない姿の自分がいた。
バラバラで、揃わない髪をどうしようかと迷ったが、ナイフも鋏もない。仕方なく不恰好なままで、部屋の扉を開けた。
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