3127人が本棚に入れています
本棚に追加
/290ページ
***〈視点変更あり〉
随分長いこと、ルーファスの黒い髪を撫でていた。長い髪も美しかったが、短い髪も悪くないと満足げに眺める。
「ルーファス?」
眠ってしまったようで、ルーファスから応える声はない。
「仕事を片付けてくるから、ゆっくり寝ておいで」
聞こえていないだろうが、ルーファスの耳元で囁いた。
部屋の前で待っていたエルフランは、頷いただけで、理解したようで、薄く微笑んだ。
エルフランは、幼い頃に家族を全員、事故で失った。その時に、一度感情を忘れてしまったからか、表情が乏しい男だ。それが真面目で素敵と人気ではあるのだが。
ルーファスの側にいる時は、人間らしい顔をよくしている。ルーファスのことをよく見ていて、多分私よりもよくわかっているのではないだろうか。ルーファスを見る目は、亡くした妹を見ている時と同じで、慈しむように優しい。その瞳が、家族を見るようなものだと思っているのは、私の願いなのかもしれない。
私は、エルフランに何も言うつもりはない。
『お前もルーファスが好きなのか?』と聞いて『是』と答えられても困るからだ。エルフランが、私を裏切ることはない。
それでもいらぬ嫉妬にかられるのは、恋する男としては仕方のないことだろう。明日からは、マオとアルジェイドといった男達が、ルーファスの護衛としてつく。優秀な彼らだ。いずれはルーファスとともに、私や国王を支える一翼となるだろう。
「ダリウスは?」
「執務室でクリス様の仕事を一部片付けてます」
「ダリウスには聞きたいことがある」
私が唸るような声を上げたのを聞いて、エルフランは一歩下がった。そのときに眉が少しだけ下がったことに私は気付いた。
「おかえりなさい。遅かったですね」
ダリウスは昨日の視察先にも同行していた。私が足止めされたので、エルフラン経由でルーファスへの伝言を伝えてもらったのだ。ルーファスの事が心配だったので、エルフランには王城のほうの仕事をまわしていて、一緒にはいなかった。
ダリウスが他の用事を済ませて王城に戻ったのは、夜も更けていたので、朝早くにエルフランに伝え、実際にルーファスの耳に届いたのは朝遅くだった。
ルーファスは、不安な気持ちを抱えながら私の帰ってくるのを待ち、我慢できなくなったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!