執務室の企み

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 式典に合わせて領地からやってきた祖父母と母が挨拶に来てくれた。もちろん俺の結婚式にもでてくれるそうだ。  母は、ローレッタのいう様に同じ人には見えなかった。人のアラをさがそうとする目線は、彼女の性格ではなかったのかと気付く。父が亡くなって、母はようやく安らかな時間を得たのだろう。  許すとか許さないとか、そういうものはもう俺にはなかった。俺が欲しくてたまらなかったものは、俺の手の中にあるからだ。形は違っても、それはクリス様が与えてくれた。  母は俺を見て、それを理解したのだと思う。  ただ、とても悲しげに俺をみているので、何か言葉をかけなければと口から出たのは、感謝の言葉だった。 「産んでくれて、ありがとうございました」  この人が産んでくれたから、クリス様に出会えたのだ。  母は、喉を詰まらせながら、咽(むせ)ぶように泣いた。リリアナ様が付き添ってくれていたので、支えられるようにして部屋を出て行った。  その夜は無性にクリス様を感じたくて、巻きつくようにして眠った。仕事も結婚式の準備も忙しくて疲れているだろうに、好きにさせてくれた。
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