ルーファスのために

7/7
3128人が本棚に入れています
本棚に追加
/290ページ
   ***〈視点変更あり〉  クリス様は、ルーファス様と過ごすために部屋に戻っていった。『愛情がない』『自分勝手』『相手を性人形としか思っていない』などの言葉は、私もそうだがクリス様も少なからずショックを受けていたと思う。愛している相手が、自分の愛情を信じられないというのは、自分のせいであっても辛いものだ。もちろん傷つけるために、やったわけではないのだから。  ちょうどいいところに、ダリウスが戻ってきた。書類に目を通し仕分けながら、機嫌の良さそうなダリウスに頼み事をするのは、自分のことでなくても申し訳ない。 「エル、ちょっと待てよ。俺が必死の思いで予約した、あの席を譲れって?」 「ああ。さすが侯爵家だ。いい席を予約しているようだな、ダリウス」  クリス様が新婚で離宮にこもっているとはいえ、仕事がないわけではない。先程来られていたのも、重要案件の確認のために顔を出されたのだ。進められるものはダリウスと手分けして捌く事になっている。クリス様の署名のいるものだけ、後で私が離宮に届けることになっている。 「仕事の片手間に、俺の大事な予約を奪うとか酷すぎじゃないか」 「這い蹲って願えというならいくらでも――」 「ああ、ルーファス様のためか……」  ダリウスは納得したようだ。 「今回だけだぞ。俺だってロッティを喜ばせようと思って。仕方ない、別プランでいくか――」  諦めたようにダリウスは、プランを立て始めた。元々企画とかが好きだから、苦ではないのだろう。 「今度いいワインを届ける」 「いや酒より菓子とか果物とかのほうが喜ぶ。あの家系は酒に弱いんじゃないか?」  ルーファス様は、酒癖が悪いとクリス様はおっしゃっていたから双子のローレッタも強くはないのだろう。 「俺もあまり、理性のきくほうじゃないからな、酒は控えている。勿論ロッティには俺のいないところで飲まないように言い含めた」  二人の関係性をみると、何かを引き換えにお願いしたのだろう。ダリウスが、こんな風に女性に執着したことは初めてだが、それがローレッタというのが意外だった。 「サランドルは雰囲気もいいしな。きっとルーファス様も喜ばれると思う」  ダリウスは、クリス様がルーファス様の機嫌を損ねたことを知らないが、そう言ってツルピカな頭をサッと撫でているのをみると、何か気付いているのかも知れない。
/290ページ

最初のコメントを投稿しよう!