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災難なショコラデー2
「んぅ・・・・・・苦・・・・・・っ、甘い――」
「ルーファスは、文句が多いな」
俺の口の中にもう一つ小さな包みを解いて、クリストファーがショコラを口移しで入れてくる。
「もうっ無理だって――ああ――っ!」
口にいれようとするのを阻止しようとしたら、ズンッと奥を穿たれて俺の腕は力をうしなってシーツの上に力なく落ちた。俺が悶えている間、クリストファーはずっと腰をグラインドさせている。
「駄目だ、これ全部、繋がりながら完食しないと――」
そんなコンセプトはなかったはずだ。それに二人で食べるのであって、さっきから食べているのは俺だけなんだけど。
「クリストファーも食べて――」
「食べている、ほら、ショコラで口がべたべたしている」
それは俺の口の中のチョコを弄ぶからであって、クリストファーが食べているわけではない。
「いらない、もう食べたくない」
顔を背けてクリストファーを拒否すると、困ったような顔をしているが、その目は何かを企んでいるように俺には思えた。
「そうだな、上の口・・・・・・とは言ってなかったな――」
クスリと笑ったクリストファーの笑みが酷薄なことに気付く。クリストファーのモノが入っているソコに、丸く小さな塊を押し込んでくるのを引きつった声で止めた。
「止めて、無理――。クリストファー!」
みっちりと隙間などないソコにグイッと押し込んでくるクリストファーに恐怖を感じた。既に何度も達った俺の身体は、力が入らなくて押しとどめることも出来ない。
「ほら、いつもより締め付けている。感じているんじゃないか?」
「うっ、あ・・・くぅっ」
「小さいのを残しておいたからな――」
シーツを力なく握りしめて耐える俺の目にクリストファーは愉しんでいるのか、唇の端を上げているのだけが映る。
こんなのはクリストファーらしくない。グリグリと押されることによって起こる痛みよりもそっちの方が気になってしまう。、俺はクリストファーに問いかけようと口を開けたが、自分の嬌声というのには少し擦れた悲鳴を上げることしか出来なかった。
「んん――っあああ――」
三つ、残っていたものを突っ込まれて、萎えた俺のモノを擦りあげながら、クリストファーは腰をゆっくりと揺らした。既にクリストファーのモノが溢れている状態でショコラなんかを入れたものだから、クリストファーが腰を動かすたびに、中のショコラもゴリゴリと俺のいいところを押してしまう。
「あ、あ・・・。もう、止めて――」
擦りあげられる内部が、痛みと快感にビクビクと反射を繰り返す。溶けて、グチャグチャになっていくのは、果たして身体だけなのだろうか。脳みそまでが溶けだすのではないだろうか。
光の点滅が視界に入り、俺は限界を感じた。
「ルーファス――、私は、誰であってもお前を渡すつもりはない――」
クリストファーの昏い瞳に俺は何故か背中を粟立たせた。
「クリ・・・・・・」
甘くてグチャグチャになってしまった俺の唇を覆うように、クリストファーは口付けてきた。まるで俺の言葉を封じるように――。
クリストファーの指は、俺の胸の突起を強弱をつけて振動を送ってくる。
力づくとも思える快感の奔流に俺の意識は攫われる。
「お前が、望んでも――」
願いはいつだってクリストファーと共にあることなのに、何故そんなことを言うのだろう。
心の奥底に鉛を飲んだような気持ちと言えばいいのだろうか、実際に腰は既に怠さと重さで自分の意思を無視した行為で動かされている。
身体が精神(こころ)に及ぼす影響というのは侮れない。現に俺の身体は反射すら起こさなくなってしまった。
どんなに愛していると言ってもクリストファーは俺のことを信じることが出来ないのだという想いだけで、俺の身体の機能はマヒしてしまったようだ。
「どうした? 思い当たることでもあるのか? 誰かにこの敏感過ぎる身体を与えたことがあるのか?」
「そんな風に・・・・・・思っていたの?」
ショックというよりもそれは、絶望に近い感情だった。
「クリストファーは・・・・・・俺の事を信じられないんだね――」
しかたのないことなのかもしれない。俺には全くそんなつもりはなかったのだが、一度逃げ出しているのだ。治外法権の神学校というクリストファーの手の届かない場所へ。
「信じている――」
クリストファーが呻くように言葉を発する。
信じたいとは思ってくれているようだと、少しだけホッとした瞬間、俺はこみあげてくるものを吐き出した。
「ルーファス!」
ショコラ、全部食べたけど、出ちゃったね――。
うっすらと残念に思いながら、俺は意識を失った。
しばらくショコラは匂いも嗅ぎたくない――。
何故かそんな気持ちで目が醒めた。
「ルーファス――・・・・・・起きれるか?」
クリストファーの心配そうな声が聞こえて、瞼を上げた。が、身体は起き上がれそうになかった。
エルフランが寝台の横にいて、支えて起こしてくれたが、力が入らなかった。
おかしな自分の身体を不審に思い、やっと昨日のことを思い出した。出来れば忘れてしまいたい気分だ。
身体は綺麗にされて、どこにもショコラなんてないのに、どこか甘い匂いが俺の嗅覚を刺激する。
「熱が出てますね。今日の公務はお休みにしましょう」
飲ませてくれたのは果実水で、大丈夫だと言おうとしたのに、突然吐き気がした。
真っ青になって固まった俺に気付いてエルフランが吐くように用意した陶器のいれものを差し出してくれた。
「何度か夜中も吐いたんです。クリス様、私がルーファス様の看病に付き添いますから」
背中を撫でるエルフランの手が優しくて、俺は少しだけ泣きそうになった。
「ああ、頼んだ・・・・・・」
クリストファーの覇気のない声が聞こえた後、扉の閉まる音で部屋を出て行ったのを知った。
今の時期は、各国の使者が安全協定のために訪れている。俺もレセプションに出る予定だったが、どうやら無理のようだ。
「何があったのかお聞きしてもよろしいですか?」
心配そうなエルフランには悪いが、あまり言いたい気分じゃない。
そういえば、クリストファーは俺に触れなかったな――と、引き攣れるような心の痛みがよぎったが、それ以上の感情は溢れてこなかった。
「ごめん、少し眠りたい――」
「ええ勿論です。横にいますが気になりますか?」
エルフランの気遣いが嬉しかったが、今はそれを伝えることも出来なかった。何かに蓋をするように、自然と瞼が降りてきて、もう口を開くことも出来なかったからだ。
どうやら何かをやらかしてしまったらしい、というのが、次に目を醒ました時の最初に思い浮かんだことだった。
クリストファーは、何かやってしまった俺に怒っているのだろう。なんだろう、俺がレセプションに出るのが嫌だったのだろうか、だからあんなことをして俺を痛めつけたかったのだろうか。
熱は、多少はあるけれど、起きれないほどではなかった。
身体がびっくりして発熱してしまっただけのようだ。
俺の尻もまさかショコラが入ってくるとは思わなかっただろうなと、渇いた笑いがこぼれる。
「ルーファス様、お加減はいかがですか?」
エルフランが横にいたことに気付く。そう言えば看病してくれると言っていたっけ。
「もう大丈夫です。手を煩わせてしまって――」
謝ろうとしたのを押しとどめるように、布を顔に押し付けられた。
「貴方はクリス様にとっても私にとっても大事な方なんです。いくらでも手を差し出しますよ」
頬を伝っているのが涙で、エルフランはそれを拭こうとしたのだと気付く。
「クリストファー・・・・・・は、何て言ってました?」
「とても動揺されていたようで、貴方の具合が悪いと」
「そうですか・・・・・・」
触らなかった理由がわかった気がした。
身体中をショコラまみれになった俺に、潔癖症がでて気持ち悪くなったのだろう。
動揺するよな・・・・・・、挿れている最中にショコラまみれのものを吐瀉されたら、流石の恋も冷めるだろう――。
クリストファーの心は離れてしまった・・・・・・、いや、俺が知らないだけで本当はもっと前に・・・・・・。
「エルフラン、クリストファーに内緒でレセプションの後のダンスパーティに出たいんですが」
「熱もありますし・・・・・・内緒というのは――。それにクリス様に執着しているリアゼット国のミリアム姫もいらっしゃってますから、ルーファス様にはあまり楽しい時間にはならないと思いますよ」
クリストファーが人気だというのは昔から変わらないことだ。あの情熱的な赤い髪、深い理知を秘めた海の青を映した瞳に惑う女は多い。それが誰であれ、クリストファーは靡いたことがない。それこそ、俺はそう信じている――。
「確かめたいことがあるんです」
エルフランは迷いを隠さず、俺に尋ねる。
「何を確かめたいのですか?」
「エルフランも気付いたでしょう? クリストファーが俺に触れようとしなかったことを」
「それは――っ!」
焦ったように言葉を続けようとしたエルフランは、戸惑いながら口を閉じた。
エルフランも不審に思っていたのだろう。いつもなら、具合が悪い俺が目覚めた時にクリストファーが抱き起してくれる。今日は、離れた場所に顔色悪く立っていた。
「俺は、このままクリストファーを待つことが出来ない。二人きりで、もしクリストファーに拒否されたら・・・・・・。でもパーティなら人がいますから、俺も取り乱すことを抑えることができると思うのです。迷惑なことを言っているのはわかってます」
エルフランは少し考え込んだ後、約束をして了解してくれた。
一つは、エルフランを伴っていくこと。
二つ目は、もし何かショックを受けることがあっても城から飛び出していかないこと。
三つ目は、安心できたらすぐに帰ること。
俺の熱を測り、平熱に戻ってることを確かめて、エルフランは「大丈夫ですよ」と微笑んでくれた。
それでも俺は不安を隠せないまま、夜までほとんど休めずに過ごしたのだった。
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