出会いー回想ー

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  ***(視点変更あり)  出会いは、年末年始の舞踏会の日。  事前に私は、母親である王太后陛下から兄ジェームスの妻である義姉上(リリアナ)の姪にあたる人物のエスコートを命じられた。  まだたった十五歳。正式にデビューすらしていない子供の相手なんてやっていられないと気が乗らないまま、渋々兄たちのいる控え室に入った。黒い髪を纏めずに赤いリボンで可愛らしく垂らした少女が、深い緑の瞳で私を見た。  その視線が真っ直ぐ私を射止める。こんなぶしつけなくらいの瞳はこの年代の少女にはあり得ない。値踏みするように少女を上から下まで眺めると、貴族の令嬢らしく綺麗なお辞儀をしたので、それほど悪くはないかと私は安堵した。  まともに挨拶も出来ない人間など、声をかける価値すらない――。  この時は王である兄ジェームスが待ちに待った妻の懐妊で仕事の多くを私に振ってきたものだから、忙しすぎて精神的余裕がなかったこともあり、務めとはいえ、舞踏会で子供の相手をするのは、苦痛でしかなかった。  近寄ると、思ったより小さいような気がした。背の高い私の胸元まで届かないくらいしかなかったので、これで踊ったらつむじしか見えない。  フンッと、鼻を鳴らしたのはわざとではなかったが、私の気持ちそのものだった。 「随分貧相だな――」  女は肉付きのいいほうが好みだったから、その細さに不安になる。 「こんな小さくて私と踊れるのか」  口から漏れた本音も酷く辛辣なものだったが、慌てる(ジェームス)とは裏腹に少女はにこやかに笑った。 「精一杯躍らせていただきます。殿下には足元にご注意くださいませ」  言外に踏んでやると気が強そうな事を言って、ツンッと顔を逸らすので、笑顔とのギャップに私は笑らわずにいられなかった。疲労が蓄積されてくると、小さなことでも笑いのつぼにはまるのは私の癖だ。 「気が強いらしい――」 「クリスに負けないお嬢さんでよかった」  兄は、心配そうな義姉上にそう話しかける。  どこでも仲のいい夫婦だ。  兄達が、連れ立って出て行くので、「私達もいくぞ」と少女に声を掛けた。  私が歩き始めると、その歩幅の違いから少し小走りに少女は後を追ってきた。  一曲ダンスを踊れば、お役御免だと私は思っていた。だから、必要以上に少女に優しくするつもりはなかった。
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