惹かれていく

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 俺が浴室を後にして寝室でウンウンと悩んでいたら、アンネットが心配そうに「声をかけたんですけどね」と入ってきた。「失礼します」と俺の額に手を置く。 「熱はないですね。顔が赤いから熱がぶりかえしたかと思いました。エルフラン様は扉の前でお待ちですよ。早く用意してお食事にしましょうね」  アンネットが用意してくれたドレスを着て、俺はその後エルフラン様と朝ご飯を食べた。彼はいつも俺の話を穏やかな笑顔を浮かべながら聞いてくれる。その後で庭に散歩に連れ出してもらった。 「お仕事中なのにすみません」 「こんな役得な仕事ならいつでも」  エルフラン様は、爽やかな笑顔でそう言ってくれた。  俺はそんなエルフラン様と話ながらも、どうすればいいのかつい考えこんでしまう。俺の会話が不意に途切れると、心配そうにエルフラン様は「どうしました?」と訊ねてくれた。「なんでもないんです」というと「今日は早く帰ってらっしゃいますから」とクリス様の帰宅が早いことを教えてくれた。  俺はクリス様が早く帰ってくると思っただけで浮き立つように嬉しくなる。エルフラン様は俺の様子に呆れた顔などせず、優しく微笑んでくれた。
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