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「今日は随分早いですね。エルは?」
私は、既に片付けた書類の束を王太子補佐官のダリウスに渡した。ダリウスに呆れながら庭を指差す。
まず遅刻してきて謝罪もなく、主の自分に挨拶する前にエルフランの所在を尋ねるその根性が気に食わないが、どうでもいいかと溜息をついた。いつものことだ。
「あれ? ロッティ様ですよね」
私の執務室から中庭が見えるのだ。
「ああ、庭を散歩させるように言ったからな」
ダリウスは書類を机において庭にでていこうとするから、慌ててとめた。
「お前は行くな――」
行くと殺す! と目で告げるとダリウスは頭を掻きながら来たばかりなのに「俺も休憩したいです」と図々しく訴えてくる。
「お前がいたらろくな事にならん。この前の股開くでどれだけ私が気まずい思いをしたと思う」
「ああ、あれは失敗でしたね。あんな気配を殺せる令嬢ははじめて見ましたよ。空気か!」
突っ込む気にもならず、「珈琲を濃いめでいれてくれ」とダリウスに命じた。
「でも昨日は結局、隣の国のアリエス王女が突撃してきて、あなたは部屋に戻ったの夜半でしたよね。今日もこの書類の量をみればかなり早い時間にいらっしゃってたようだし。ちゃんと謝ってないでしょう」
私は、ガリッとペン先を紙に食い込ませてしまい、恨めしい目でダリウスを睨みつけた。
「あと二日だ……」
「あと二日って何がですか?」
ダリウスの珈琲はエルフランのよりはマシだが私の好みではなかった。それを一気にあおるように飲んだ。「あと二日でロッティは義姉上(リリアナ)の部屋に戻るんだ」
「そういえば王妃様のお話相手にいらっしゃっていたのに、何故あなたの部屋にいるのですか」
そういえば言ってなかったなと、経緯を説明した。
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