誤解と離別

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「クリストファー様! アリエスがまいりましたわ!」  元気一杯の朗らかな女性の声が聞こえた。  俺は、中々開かない瞼をこじ開けた。クリス様の香りが俺を包み込んでいて、理知的な顔が目に入ると、幸せな気持ちで一杯になった。  俺、生きてきてよかったなと実感したもつかの間、クリス様の横顔が怒りのためにか引きつった。  あれ、俺何かした? とおののきつつ、クリス様の目線の先を身体をなんとか起こして注視した。  誰――? えと……本当に誰でしょうか――。  ここはクリス様の部屋の寝室で、勿論護衛騎士が部屋を守っているはずだ。俺はクリス様がいるときには見たことがないけれど、エルフラン様もクリス様がいる間は待機しているはずだ。横にエルフラン様の部屋があるといっていた。 「アリエス――! 俺の部屋に入ってくるなとあれほど言っておいただろう! 出て行け!」  クリス様が珍しく俺と言っているのに驚いた。  この女性が部屋に勝手にはいることは、もしかするとよくあることなのかもしれない……とクリス様の言葉で気付く。  金色の豊かな髪をなびかせて、大きな目を驚きに見開いて、彼女は俺を穴が開くんじゃないかと心配になるほど見詰めて絶句していた。  顎が外れるんじゃないかな……。それに王太后様にその驚き方を見られたら、鞭が飛ぶよ? と言いたい。  小首を傾げて「まぁ……っ!」だったはずだ。  驚いたのは俺も同じで、つい逃避してしまった。  俺はシーツを引き寄せて、その視線から身体を隠した。 「あの……クリストファー様? それは……」  それとは俺のことだろう。 「エルフラン! アリエスを連れて行け」  その頃やっと姿をあらわしたエルフラン様は、湯気のたった器などをお盆に載せてやってきた。食事をとりにいってくれていて、いなかったようだ。  クリス様は立ち上がってもう一枚の上掛けを腰に巻くと、「くそっ!」とらしからぬ言葉を吐いて、アリエス王女の首根っこを掴んで寝室から出て行った。  クリス様も勿論裸だったものだから、アリエス王女は「キャーー!」と嬉しげな悲鳴を上げて、部屋を追い出されていった。
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