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「部屋にルーファス様を迎えにいったんです。扉が開いていたものですからアリエス王女とクリストファー殿下の声が聞こえて……。アリエス王女が『あの子は遊びで抱いていたんですよね』と言っているのをリリアナ様がお聞きになって……。クリストファー殿下の寝室に押し入ったのですわ」
俺は床にヘタリこんだ。
なんて、間の悪い――。
自分は常日頃からついていないなとは思っていたが、そんなところまでとは……。
「まぁまぁ、そんな所に座ってらっしゃらないで。お食事は?」
情けない顔の俺を慰めるようにアンネットが手を握って俺を立ち上がらせてくれた。
「ミルクとゼリーは食べたよ」
「そんな少ししか食べないから……。もっと筋肉をつけないと」
アンネットは若いのに母親のように言う。
「クリス様は?」
少しだけ気まずそうに、アンネットは目線を逸らした。
「リリアナ様が目覚めた後、酷く罵られて……。興奮は良くないからといって出て行っていただきました。その後お薬でリリアナ様もお眠りになって……。リリアナ様は、ルーファス様の事を可愛がっておりましたから、自分が呼んだせいだと御自分をせめてらっしゃって……」
「アンネット……。俺、リリアナ様に嫌われたかな?」
自分の両親よりリリアナ様はずっと俺を可愛がってくれた。たまにしか会えなくなって寂しかったけれど、自分に優しい人はいるのだと信じさせてくれた人なのに。
「そんなはずはありません! ただ、しばらくはクリストファー殿下にお会いするのはおやめくださいませ。リリアナ様も大事な時期ですから」
そう言われてしまえば、俺には否やは言えなかった。
元々俺の風邪が治るまでという約束だったのだ。クリス様も今日の夜には帰すと言っていたし。
「うん。俺、リリアナ様に嫌われたくないよ……」
大事な家族なのに。リリアナ様は、俺を大事に思ってくれているからこその激怒なのだから、わがままをいってはいけない――。
俺のクリス様との楽しかった日々は、その日を境に唐突に終わってしまったのだった。
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