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「ルーファ……。王都の家じゃなくて、領地のほうのお爺様のところに戻りなさいな。もう少ししたら学院が始まるでしょ? 家に帰らなくていいわ」
今回のことがばれているとしたら、ローレッタに恥をかかしたと父は激怒するだろう。家に帰るより、領地のお爺様のところがいいかとリリアナ様の案に乗ろうとして、思い出した。
そうだ、リグザル王国の神学校は遠くて、一週間以上かかるのだ。少し早いけれど、そちらに行こう。
明日、家から来るローレッタの馬車に乗って、リグザル王国へ行ってしまおうと、俺は決めた。
ロッティとクリス様の仲のいい姿なんて、一瞬たりとも見たくなかった。そこまで、惨めになりたくなかった。
俺は領地に帰ると告げて、途中の旅費をリリアナ様にもらった。これだけあれば、リグザル王国だって三往復以上できるだろう、多分。
家に帰ったと知ったら、クリス様は少しくらい寂しがってくれるだろうか。学院に行かないで、神学校に行ったと知ったら、怒るだろうか。
でも、俺は、クリス様以外の人に触られるのも抱かれるのも、嫌だった。嫌だったら断ればいいと言っていたが、身分も高く、自信に溢れたクリス様のような先輩に断ることなんて、世慣れない俺には無理だろう。
俺は妹や弟をうらやみ、美しい姫に嫉妬する情けない男だ。神学校は、そんな俺の心を鍛えてくれるはずだ。身体を鍛え、心を鍛え、勉学に励む。
『青春は素晴らしいけれどね、睡眠を削ってまで出来るものではないよ』と、渇いた笑いを上げて、領地にいた神学校出身の神官様がおっしゃっていた。とても厳しいところなのだそうだ。
ついていけるかが心配ではあったけど、新しい生活が楽しみでもあった。
次の日、部屋で見送りをしてくれたリリアナ様にお礼を言って、部屋を出た。アンネットはリリアナ様についているので、違う侍女が鞄を運んでくれた。
馬車着への道を歩いていると、遠目で見える木の陰にクリス様とローレッタが口付けしているのが見えてしまった。
やはり、俺は間が悪い。何もこんな時まで目ざとくならなくていいのに――。
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