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来たばかりのローレッタが口付けをしているということは、俺が知らされなかっただけで、二人はそういう関係だったのだろうか。ローレッタは、父についてたまに公式ではない王宮のパーティにも出ていたし。ああ、それで初めて会った夜、俺が男だったからビックリしたのかもしれない。
深い関係ではなかったのか……と、それだけが慰めだった。
馬鹿だな、本当に馬鹿だ。こんな想いをしたくなかったのに――。
「ルーファス様?」
アンネットの夫である侍従のカールが、侍女から鞄を受け取り、心配そうに声をかけた。
まだ、涙は出るらしい――。
「しばらくリリアナ様に会えないと思ったら、泣けてきたよ。恥ずかしいから、二人には内緒にしてね」
そういうと、アンネット同様に優しいカールは、力強く頷いてくれた。カールは、家からローレッタを送ってきた際に父からの手紙を預かってきていた。そこには、神学校への入学の手続きが済んだことと、家には帰ってくるなという怒りの文章があった。
重い溜め息が出た。俺は、カールにその手紙を見せた。
カールは言葉を失って紙を握りしめた。アンネットと同じようにカールも昔は家にいたから、俺のことは可愛がってくれていた。
「リグザル国の神学校まで送ってくれる?」
何も思っていないようにつとめて冷静に声をかけると、カールは少し慌てながら「かしこまりました」と馬車に乗せるために手を貸してくれた。
馬車のカーテンを下ろし、俺は窮屈なドレスから男の服に着替えた。
ジグラード教の神学校への道を、明るい希望だけでないものを抱えながら、進んだ。
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