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プロローグ
「好きなんだ……ロッティ。いや、そんな言葉じゃ足りない。――お前を愛してる」
背中から抱きしめられて、その切羽詰った男の低い声が首筋を突き抜けた。
身を震わせて、その男の手に自分の手を重ねる。
うん、知ってる。でも駄目なんだ。
――だって俺、男なんだもん。
「ごめんな……さ……」
俺は声を震わせて、男の手に涙を落とす。
好きなのに、それでも俺は女じゃないから嫁になることが出来ない。
遊びなら大丈夫だって? わかっている――。俺もそう思っていた。
王太子の愛妾として、側にいればいいじゃないかって。
でも、無理なんだ――。
好きになったあなたと他の人間が口付けを交わすのを想像しただけで、心が痛くて苦しくて、涙で呼吸ができなくなった。
俺にだって、幸せになる権利はあるはずだ。
自分の心を護るために王太子から、逃げた――。
あなたの声の届かない場所へ。あなたのぬくもりのない場所へ――。
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