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例えばそんな夜もある
指先が震える――。
ラグに横たえられて柔らかい感触が頭をくすぐってくるのを気持ちいいと感じながら、震える指先でクリストファーの頬を撫でた。
近くに欲しいぬくもりがあるのに、ジッと見つめてくるだけで触れてくれないクリストファーにすねたような顔を向けるとようやく唇が落ちてきた。
触れた温かい唇の感触を薄く唇を開けて食んでみる。
「そんな顔をしても駄目だ」
クリストファーの下唇を味わおうと思っていたのに、離されて、そう告げる目は海の青で、俺が一番大好きな色――。
「だめ……?」
「ああ、駄目だ……。そんな物欲しそうな顔をしても今日のことは許せない」
ああ、失敗してしまった。クリストファーを怒らせてしまったのだと思いながら、俺は起き上がろうとしたが、クリストファーの腕に邪魔されてラグに縫いとめられたまま途惑いに瞳を揺らせた。
「でも……」
「言い訳はなしだ」
「あっ! クリストファー――……」
きつく平たい胸の頂を指で摘み上げられて、俺は驚きと衝撃に声を上げた。
「ほら、いやらしく胸を尖らせて、誘惑するんだお前は――」
「ああ……ん。だって、クリストファーがそんな風にするから、あっ、あ、だからそんな風になるんっ!」
唇を食いしばらないと悲鳴を上げてしまいそうに、敏感な胸に歯を立てられてしまった。
「お前は、そんな顔で――」
クリストファーの言葉を追いかける事もできないくらいに、敏感になった胸をクリストファーは舐め舐り、噛み付くのだ。跳ねる体を硬くして、必死に耐える俺をクリストファーは冷静な目で見つめてくる。
自分だけ熱くなっている身体が恥ずかしくて、胸を抱いてクリストファーから隠そうと横を向いた。
「胸はもういいのか?」
ポンッと何かを開ける音がして、クリストファーの指が俺の尻を撫でた。
温度を感じさせない声なのに、手はどこまでも優しい。狭まりを何度も濡れた指がなぞり、俺が力を入れても無駄だったようで、その指はゆっくりと入ってきた。なにか潤滑剤的なものだったのだろう、ポンと鳴ったのは。
「あっ……」
「何度ここを開いても、緩まないな。張子でも入れてみるか? それとも私を一晩中入れたままにしてみるか?」
言われた言葉に背中がゾクリと粟立った。
二本目もすぐさま入れられて、俺は腰が揺れそうになるのを必死で堪えた。指は咥えさせられたままでジッとしている。それなのに俺の中はその指を味わうように蠢くのだ。
もっと欲しい――。
「クリストファー……、おねが……い。もっとちゃんとしてほし……い」
同じように横になり俺の背中を舐めたり噛んだりしているクリストファーに声を詰まらせながら願う。
「お仕置っていっただろう?」
首筋を噛まれた瞬間、身体が震えて、俺はクリストファーの指を締め付けながら、白濁をこぼした。
「ああっああ……」
「達ったのか……。お前は私じゃなくてもいいんだろう? この指程度のものがあればなんだっていいんだ――」
弛緩した身体をクリストファーは仰向けにして、俺の脚を抱え込んだ。
「お前にはご褒美にしかならんだろうがな」
クリストファーが、解しも十分でない場所を自身で貫いた。
「ぐぅっあっ、んんん――ッ」
悲鳴はクリストファーの強引な口付けで口腔に吸い込まれる。クリストファーの冷たい視線の下で俺は痛みを堪える。普段から甘すぎるほどに甘いクリストファーがこんなに強引に挿入ってくることはほとんどないから、強張る四肢に力がはいってクリストファーを締め付けているのだろう。強引なくらいの腰の動きに恐怖を覚える。
「あ、いやっ――、もう止めて」
クリストファーがその声を聞いて、俺のいい場所を突き始める。揺れる視界と次第に訪れる快感に俺は首を振った。
「あ、ああっ! クリストファー、もう達く……っ」
「駄目だ、まだ我慢しろ――」
「無理っ、あっ、握っちゃやあああ」
俺が達くのを止めるためにクリストファーが強く俺を握る。
「あっ、あ……、あああぁぁんっ」
俺は前を止められて後ろだけで達ってしまった。大きな波が俺を浚い、快感がぼんやりと意識を途切れさせる。
まるで赤ん坊がミルクをゴクゴクと飲むようなそんな感覚でクリストファーの精液を欲して収縮する。
クリストファーが「ルーファス――……っ」と眉間に皺を寄せ、耐えていたものを俺の奥に全て吐き出した。与えらえた熱いものに俺の腹の中がじんわりと温まり、何度も痙攣を繰り返し俺もやっと自身を解放されて、俺は少しの間だけ意識を手放すのだった。
チャポンと水音が響いて、俺は目を醒ます。
四肢がダルイ――。
よくある視界に湯船にいることに気付いた。背中をクリストファーに預ける形で風呂に浸かっていた。
「飲むか?」
口元に当てられたグラスから冷たい果実水を飲むと、やっとぼんやりしていた意識がしっかりしてくる。
「クリストファー……」
「ん? どうした?」
含み笑いを堪えるようなクリストファーの口調に、溜息が出た。
「やっぱりダリウスの言うことを真に受けるのは止めてください」
俺の双子の妹ローレッタの夫であるダリウスが、今日クリストファーとの休憩中に最近はまっていると言っていたことを咎める。
「だがお前もいつもより興奮していただろう?」
俺の長い髪をを湯船の中で弄びながら、クリストファーは後ろから顔を覗いてくる。
「クリストファーの目が怖くてそれどころじゃなかったと思いますけど」
横からチュッと頬に口付けると優しい瞳で「そんなに怖かったか?」と聞いてくる。
ええ、夢に見そうなくらい冷たかったし怖かった――。
「演技派ですね」
そう、さっきやっていたのは、ダリウスがはまっていると言っていたシュチュエーションエッチというやつなのだ。今回のシュチュエーションは、俺が隣国の大使に唇を奪われてそれをクリストファーに咎められるという何ともかんともな設定なのだけれど。
「お前の唇を奪われたと思ったら制御が利かなくなった……」
口付けだけでアレですか? 温かいお湯の中だというのに何故か寒気がした。
「えっと……」
「本気だったからな、怖くて当然だ」
駄目だ、この遊びは危険すぎる。というか、他の人間に口付けされただけであんなになるの?
そう思うと、いい教訓だと納得できた。絶対奪われちゃいけない、たとえ唇だったとしても。
「私以外の人間がこの唇に触れるなんて、許せると思うのか?」
「駄目、駄目だね。絶対に許さないよ、安心して」
思わず早口で告げる。その唇にクリストファーが優しく吸い付いてくるのを受け止めて俺は力を抜いてクリストファーに身体を預けた。
クリストファーは満足げに微笑むと俺の身体を先ほどとは違う熱さと丁寧さでもって愛撫しはじめるのだった。
<FIN>
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