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家族の肖像2
あまり眠ることが出来なかった……。
時間が過ぎるのが遅く感じられる。起き上がって水を飲むと、少しだけ楽になったような気がした。
「こんなんじゃ公務だっていけないな……」
クリストファーのいうように、絶対に王族が参加しなければいけない催しでもないのだ。きっとクリストファーは、俺を行かせないだろう。
「ルーファス? 起きていたのか……。どうだ、具合は……」
額をコツンと合わせて、クリストファーが瞳を覗き込んでくる。逃げたい衝動に抗えず、視線を反らせてしまったのをごまかすために「あまり良くないのでもう少し寝ます」と寝台に戻る事にした。
「ルーファス……」
寝台に戻った俺を軽くおさえ、クリストファーは口付けを落とす。それを受けても俺の身体は冷え切った心を映すように、いつものように蕩けることもなかった。病人にそんな口付けをするなといいたい位に、クリストファーは執拗に俺の口内をまさぐる。
「ふっ……」
二人の混じった唾液が零れ、息が上がっても、俺の身体は全く反応しなかった。クリストファーは俺を冷静に見下ろした後、首筋に噛み付いてきた。
「あぅ、や、やだ……っ!」
「何があった? 他に好きな男でもできたのか!」
それはクリストファーのことだろうに、俺を責めるような目と態度に腹が立った。
「そんなことクリストファーに関係ない!」
関係がないわけがないのに、混乱した俺は多分言葉を間違ったのだ。
「――っ! お前を誰にも渡すものか」
噛みしめるようにクリストファーが告げた言葉は俺には嬉しいものだった。
俺を欲し、いない誰かに嫉妬しているような俺が知る穏やかなクリストファーとは全く違う、男を強く感じさせる言葉に冷え切っていた心が熱くなる。
けれど怒ったクリストファーは俺の変化に気付く事がなく、俺をひっくり返し寝台に押し付けた。力任せに俺の夜着と下着を引き摺り下ろした。
「ん、んんっ」
寝台のシーツに声を吸い取られて、クリストファーに言い訳も出来ない。というか、息が出来ない。
上着も破いて半分下ろされたものだから、手が全く使えない。尻だけを上げられて顔で身体を支えながら、俺はなんとかクリストファーを止めようと身体を捩った。
息が出来ない抵抗を拒絶と勘違いしたクリストファーは、怒りにまかせて、解してもいない俺の尻に自身のアレを突っ込んできた。手早く香油でも落としたのか、滑りをかりて挿ってきたクリストファーは一息さえ吐かずに動きだした。
「――っ! グゥ……!」
俺は衝撃に声を上げたが、小さなくぐもった音にしかならなかった。
「お前は淫乱だ、嫌がる振りをしても、ここは私を咥えて離さないっ」
嘲るように俺を嗤う男は、本当にクリストファーだろうか……。
クリストファーが言うように、どんなに酷く突き上げられても、俺のソコはクリストファーを受け入れていた。馴染むそれを包み込み、絞るとるように蠢く。抜けそうなくらいの場所から奥まで一気に挿入ってくると、身体が前にずれるくらいの衝撃がある。普段、クリストファーは俺のいいところを優しく愛撫するように動いてくるから、その凶暴な動きは、内臓を突き破られるんじゃないかという恐怖が伴う。強張る身体に気付いているだろうに、クリストファーはそれを止めない。
「みろ、どんなに嫌がっている振りをしてもお前は私のこれが好きなんだろう?」
きつく前を扱かれて、俺は喉の奥で啼いた。
こんな無理やりされても、俺の身体はクリストファーを受け入れ、痛みを快感ととらえているようだった。
「熱があるからか熱くて……気持ちいいな」
いつもよりも深いところまでクリストファーは進んできたように思う。
「ん――っ!」
満足に声も出せない状態で、俺はクリストファーの熱を受け止め、ひく付きながら、全てを自分のものにするように飲み込むような動きをして、俺も果てた。
「お前は、誰にも渡さない――っ」
うっすらと霞む意識の中でその言葉だけを聞き取り、そのまま意識は闇の中に落ちていった。
「ルーファス様?」
マリエルの声に返事をしようとして、声が出ないことに気付いた。代わりにコホコホと乾いた空気が漏れた。本格的に風邪をひいたのだとそこで気がついた。
身体が軋むのは、熱のせいかクリストファーのせいかはわからないが。
「蜂蜜水、飲めますか?」
背中にクッションを入れてくれた体勢でもらったグラスの中身を飲み干すと、マリエルがホッとしたように顔の表情を緩めた。
「ありがと……」
身体に不快感はないから、クリストファーが綺麗にしてくれたのだろう。天蓋を上げてもらうと既に夜になっていた。一日眠っていたのだと気付いて、クリストファーの姿を目線で捜すと、部屋の端にアルジェイドでもマオでもない護衛騎士が二人立っていることに気がついた。
「なんで?」
部屋の中に入ることもほとんどないはずなのに、寝室まで入ってくることなど普段なら有り得ないことだった。
「クリストファー殿下のご命令です」
騎士の言葉に軽く笑いが漏れた。
「信用がないってことか……」
逃げ出さないように部屋のなかで見張っているということらしい。
「ルーファス様。クリストファー殿下は今日は遅くなるそうです」
「そう……」
「ルーファス様が出席予定だった子供達の展覧会にもいらっしゃっているので……」
クリストファーは、別にいく必要がないと言った俺の公務も肩代わりしてくれたのだという。気を使ってくれたのかと思うと、少しだけ気持ちが解れるのが自分でわかった。
「逃げないから……マリエル以外は、出て行って欲しい……」
こんなにフラフラな状態で逃げるわけがない。それをわかっていながらもクリストファーの命令には逆らえない二人に俺は再度「出て行ってくれないと眠れない」と告げた。
二人は目配せし合ったが「命令ですので……」と繰り返しただけだった。
クリストファーを含め、王族の誰もが仕える騎士を大事にしているから、無闇な命令をしたりはしない。だから騎士達は、その命令に逆らう事を良しとしないのだ。
「……」
お前達は俺の護衛なんだろうと怒鳴りつけたいが、なんとか理性で押し留める。
「私だけで結構です。出て行ってください」
俺より先にマリエルが声を荒げた。珍しいことに怒っているようだった。
「クリストファー殿下のご命令ですので」
若いロイという名の護衛騎士が口を開く。
「出て行きなさい! ルーファス様は今からお召しかえですよ」
「ルーファス様から目を離すなと言われております」
「あなた達は……、ルーファス様のお着替えを覗くというの? なんて……。わかりました。このことは、陛下にも王妃様にも、城中の人間にいいますよ。勿論、どんなことになるか私はしりませんからね!」
マリエルの言葉は脅しだった。クリストファーは普段から俺の服を決めるときでも肌を出すものを好まない。見せたくないという意識の表れを隠すこともしていないのだ。そのクリストファーがルーファスの着替えを見せたいと思うわけがないと人々は思っているのだから、マリエルが「護衛騎士がルーファス様の着替えを覗いた」といえば、非難されるのは護衛騎士だ。
護衛騎士は想像だけで青褪めた。
「ルーファス様は、私が見ているといっているのです。ルーファス様は私の言葉を違えたりしません」
マリエルは、そう言って護衛騎士を部屋の外に追い出した。
「マリエル、それは俺への脅しじゃないか……」
乾いた声でそういうと、「そうかしら?」とわかっていながら笑うからマリエルも強かだと俺は呆れた。
「でも辛かったら逃げていいんですよ」
クリストファーからどこまで聞いているのかわからないが、マリエルは気遣うように俺にそう言った。
「逃げないよ……」
寝台に寝転んで、目を瞑ると、頭がズキズキと痛む。
「お薬、用意しますね」
俺は、痛むこめかみを押さえながら、クリストファーに言うべき言葉を探すのだった。
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