序章

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母は胸を撫で下ろす。 「ところで、そのアルトサックスは何? 初めて見るけれど」 母は自分が抱えるアルトサックスを上から下まで見て今更のように「あぁ」と反応した。 「……見つかっちゃったわね」 私が黙っていると母はどこか寂しそうに微笑いながら説明する。 「これは、私が学生の頃にお父さんに秘密で買ってもらった物なのよ」 意味がわからなかった。まず、父に秘密で買ってもらうシチュエーションが想像出来なかったから。母はちんぷんかんぷんの私に付け加える。 「実は、私は昔凄いお嬢様で、お父さんはその使用人だったのよ」 「……嘘」 私の思考が止まる。だって父は母に敬語を使った事は一度だってない。そして今の父はただの会社員だ。
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