出逢い

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出逢い

母は若い頃、政治家の娘だったらしい。今住んでいる一軒家の三倍は大きな御屋敷に住んでいたとの事だ。 父は母より8歳程歳上の使用人で、父親、つまり私の祖父と家族共々仕えていた。父は誠実で優しく、母は少々わがままでお転婆だったらしい。父はともかく、おしとやかを地で行く母の少女時代は意外だった。 「ねぇお父様! 私アルトサックスを吹きたいの!」 テレビでジャズのパフォーマンスを観た母は、父親である私のもう一人の祖父にそうねだったらしい。しかし祖父はアルトサックスを女性が吹く事をはしたないとでも思ったのか却下されたそうだ。しきりにフルートならば良いと言われたが、母は首を縦に振らない。 「フルートって如何にもお嬢さんって楽器じゃない? だから嫌気がさしてたのよ。サックスの方がカッコいいじゃない」 母の言いたいことはわかるが、祖父の意見には私も賛同したい。サックスがはしたないとは思っていないが、歳をとった今でも女性らしい(たお)やかな母には、サックスよりフルートの方が似合いそうだ。さっきサックスを吹いていた姿も、ちぐはぐで非常に違和感があった。
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