出逢い

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さて、楽器を手に入れたはいいが、吹き方がわからない。一応教本もケースの中に入っていたが、屋敷には肝心の練習場所がない。母は屋敷から1キロくらい離れた所に無人の神社があった事を思い出し、そこまで歩いて行ったそうだ。 「移動はいつも車で、ろくに歩いた事なかったのにね」 母の呟きを受けた私は内心、本当に絵に描いたようなお嬢さんだなと呆れてしまった。母は懐かしむように目を細める。 重いサックスを抱えようやく辿り着いた神社で、何とか楽器を組み立てて母は音を鳴らそうと頑張った。しかし、ちいとも音は出なかったらしい。 「サックスって音を出すのにコツがいるのよ。リコーダーみたいにはいかないの」 体力がない母は酸欠になりそうになりながらも頑張って息を吹き込んでいた。しかしいつまでも音は鳴らず、もう諦めようかと思った頃、奇跡が起きる。
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