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「29番、君は今日で卒業だ。」
あまりにあっけなく、あまりに唐突にその時は訪れた。
卒業”と言えば聞こえはいいが、実際は成績の悪い出来損ないを排除することが目的だ。
物心がついた頃にはこの施設にいた。
たくさんの友人が卒業していった、卒業した人間との連絡は固く禁じられていて、僕らには彼らが生きているのかすらわからなかった。
今やこの施設にのこっているのは僕を含め21人だ。
特別、成績が良かったわけでもなかったけどどこか他人事のような気がしていた。
しかし、現実は違ったみたいで、今日こうして訪れた。
「おい、なんかあったのか?」
隣の部屋のショウが僕が呼び出されたのを聞いて駆けつけてきた。
「いや、なんでもないよ。最近成績が低いからがんばれよってさ」
「なんだ、俺はてっきりお前が卒業でもすんのかと思ってよ、気が気じゃなかったぜ」
「当分は大丈夫だよ、心配性だな」
「そうだよー、ショウ君は心配しすぎだよー」
どこかで話を聞きつけたのかマリーが小走でやってきた
「お前もわざわざ走ってきて、心配してんじゃねーかよ」
「そんなことないよー、ゆー君ほんとに大丈夫なの」
「ああ、大丈夫だから、安心して」
「よかったー、心配したよー」
「やっぱり、してるじゃねーか」
二人のくだらない言い争いがはじまるいつもの光景。こんな毎日がいつまでも続くと僕は本気で思っていた。
だからこそ、彼らが同じ考えだと思うと、僕にはほんとのことを言うことができなかった。
そのままいつも通りに一日は過ぎていく。
最後の日だからといってなにか特別な何かがあるわけでもなく過ごす一日。
明日から僕はどこで生きていくのか、どんなことをしていくのか、そんな不安の念をみんなに悟られないように。
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