願い事

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この町の中心にある丘のてっぺんには、大きな大きな桜の木がある。満開に咲き誇った丘の夜桜に願い事をすると、願いが叶うという都市伝説があった。 「チクショウ、面白くねぇ!」 和馬は飲み干したビール缶を片手で潰すと、力いっぱい床に叩きつけた。潰れたばかりのビール缶は、同じく見るも無残な姿になった仲間達に紛れ込む。 部屋の中は空になって潰れた大量のビールやチューハイの缶が転がり、空気は煙草の煙で淀んでいた。 和馬は元々真面目な性格で、酒や煙草もあまりやらない人間だった。そんな彼を一変させたのが元カノである遥香。 彼女は和馬より年収のいい男を見つけると浮気をし、和馬にわざと浮気現場を目撃させると「見ての通りよ、別れて」と一方的に別れ話をした。 和馬にとって遥香は癒しの象徴の様なもので、一生守ると決めていた。 そんな大きな存在を最悪のシチュエーションで失くし、心にぽっかりと大きな穴が空いた。 『ねぇ、知ってる?あの丘にある桜、夜に願い事をすると叶うんですって』 ふと思い出したのは遥香が以前言っていた迷信。 「所詮迷信は迷信だ」 声に出して言ってみるが、どうもその迷信が頭から離れない。 「はぁ、今何時だ?」 舌打ちをして時計を見ると、午後4時半。窓の外を見ると太陽は沈みかけていた。 「日中酒買いに行った時は満開だったっけな……」 和馬はそうぼやくと、タンスから着替えを引っ張り出した。 酔い醒ましに熱いシャワーを浴びて服を着る。時計を見ても5時にすらなっていない。 「どっかで腹ごしらえでもしてくか……」 和馬はジャンパーを羽織ってポケットに缶ビールと煙草をねじ込んだ。
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