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和馬は外へ出ると、丘の近くにあるファミレスへ入った。
安めのメニューを注文すると、ドリンクバーで炭酸水割のアイス珈琲を作って料理と一緒に口にした。
料理を食べ終えて時計を見ると6時過ぎ。外はまだ薄暗く、夜になるにはもう少し時間が要る。
「少しはやく出過ぎたか?」
和馬はそう呟くと、煙草をくわえて火をつけた。
スマホニュースに炭酸珈琲と煙草で7時過ぎまで時間を潰すと、和馬は丘の上を目指した。
丘の桜まではさほど時間がかからずについた。桜越しに見える月がとても幻想的で美しく、案外あの迷信も本当なんじゃないかと思えた。
「こりゃ見事な桜だ……」
「誰かいるの……?」
和馬が桜に感動していると、どこからか声が聞こえた。灯火の様な、今にも消えてしまいそうな儚い声が。
「どこだ?」
「たぶん……、桜の向こう側、かしら……?」
儚い声に従い桜の向こう側に回り込み、和馬は絶句した。
目に包帯を巻いた小柄な女性がそこにいた。彼女は片手に白いステッキを持ち、小さな体を桜の木に預けていた。
「アンタは……」
「ごきげんよう」
彼女は口角を上げて微笑んだ。
「どうしたんだよ、それ……」
和馬は口を開いた後に後悔した。見ず知らずの女性にいきなり怪我の事を聞くなんて失礼にも程がある。
「友達と焼肉屋に行ってね、私の事が嫌いな人が私がかがんだ時に大量のホルモン投げ込んで火柱が出来たの。それで目の周り火傷しちゃって。不幸中の幸いで、失明とかはしてないのだけど……」
和馬が撤回する前に、女性はスラスラとひどい事実を話した。
「ひどい話だな……。もしかして火傷がはやく良くなるようにって願いに来たのか?」
「ううん、私の火傷を見ても気味悪がったり同情したりしないで気持ちを明るくしてくれる太陽みたいな人と会いたいって」
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