『椅子に座るは春夏秋冬の』

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風などでは到底揺れもしない重厚感溢れるそれがひとりでに揺れている様はとても不自然で、けれど自分はそれが揺れている理由を知っていた。 今の今まで彼女がそこに座っていたからだ。 女が席を後にすれば、その椅子は色を失うかのようにただの廃屋の一部に変わり果てた。 そもそも屋外にそのような椅子がある事がおかしいのだけれど、誰もそんなことを気にする者はいなかった。 ここは廃墟なのだから、寄るものも滅多にいない。 そんな家屋を見つめていると、ふと自分のことのように感じた。 この世に生を受け十数年余り。 もうすぐ二十歳になる。 三男坊に生まれた私は概ね順風満帆に生きてきた。 決められた服を着て、決められたものを学び、与えられたものを食べる。 反抗さえしなければ食べるものにも、学ぶことにも困らず、医者の家系ということもあり金にも困ったことがない。 勉強はできる方で、成績もそれほど困ったこともない。 優秀な兄様達と愛されてやまない姉様がいたお陰もあり、私は家に縛られることも、求められることもなく平凡に生きてきた。 何もかもが揃った端正な道、けれどそれに自分の将来は用意されてはいない。 それだと言うのに、与えられたそれを歩む以外は許されずに幼少期を過ごしていたことに私はずっと疑問にすら思わなかった。 だから反抗もしたことがなかった。     
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