桜と君と

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あの年の春、彼は桜の木下で空を仰いでいた。 大きく手を広げて胸から大きく息を吸っていた。 その日は春雨が降っていた。 満開目前の桜はとても美しかった。 暖かく強い南風が吹くと花びらがふわりふわりと舞う。 彼は、風に舞う花びらを一枚優しく手に取った。 そしてまた自分の息を吹きかけて飛ばす。 そんな幼いことをする彼を見て私はふふっと笑いをこぼした。 彼はそんな私の方を見て優しく微笑みかけてきた。 雨が少しずつ強くなる。 私はバックのなかから折り畳み傘を取り出した。 そして彼の方へと近づいた。 「濡れますよ。どこかで雨宿りしませんか?」 「雨宿りならこの木の下でいいでしょ?」 木だけで雨を防げるわけない。そう思っていたのに。傘を閉じれば本当に雨は防げていた。 彼はふふっと笑った。 不思議な感覚だった。 「あなた、名前は?」 私が聞くと 「名乗るほどのものではないですよ。」 と。彼は言った。 そんなことをしてる間に雨が止んだ。 そしてさらには大きな虹がかかっていた。 「雨、あがりましたね。では、僕はこれで。」 彼の背中が見えなくなって、空の虹も消えかかっていた。 それから彼に会うことはなかった。 今になって気づく。 私は彼に一目惚れしてたのだ。 もう一度会えたらいいな。 桜が咲く季節。今年も彼の姿を探してる。
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