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川越に念願だったホームドアが出来たと新聞記事にあった。
私達は早速、其処へ行ってみることにした。東武東上線は昔から事故が多く、その度電車が遅れていたのだ。その原因の一つが、東武が高い違約金要求しないことにあると何処かの駅で運転再開を待っていた時に言われた。
実際にそうなのか解らないけど、もっと高く取れば軽々しく踏み切り内には立ち入らないても語っていた。
東京メトロの乗換駅には設置されているにはいるが、それ以外は見たことがなかった。だから尚更嬉かった。
「念願のホームドアってあったけど、本当に感慨無量だね」
「それにしても遅すぎないか?」
「そうよね。有楽町線には全駅あるのにね」
「会社方面じゃないな? 一体何処へ行ったんだい?」
「東京地方裁判所。桜田門駅で降りるの」
「桜田門って、確か皇居と警視庁がある場所か?」
「警視庁の反対側にレトロなレンガ造りの建物があって、その隣の建物に裁判所が入ってる」
「何の裁判だ。まさかお前さんが被告じゃないんだろう?」
「当たり前じゃない。私が悪いことをする人間に見えて?」
「ふふふ、人間見た目じゃな」
先輩がキツいことを言う。だから私は言ってはならない家族の恥をさらけ出す羽目になっていた。
私の母は兄を装おった詐欺の被害に遭っていたのだ。
「『母ちゃんごめん』って電話機口で言われ、母は兄だと思い込んだの」
「お兄さんってそんな言い方するの?」
「うん。そっくりだったらしいよ」
「でも普通、違う人が持ちに行くって言われた時点で気が付くはずだけどな」
「それが最後まで自分が行くって言ってたみたい」
そんなこと話していたら、観光案内所まできていた。
「市の駅には無いんだよ。だから此方が便利なんだよ」
「ちょっと遠回りになるけどね」
「いや、それほどでもないと思うよ。あっ、これが驛の鐘だ」
「驛の鐘? 初めて聞いたわ」
私は暫くそれを眺めていた。
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