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川越駅前のだだ広い高架デッキを左に歩き階段を降りる。
其処にあるデパートの脇道を真っ直ぐに比較的大きな通りとぶつかる。
更に進んで行くと、五叉路があった。
一番広い通りを行くと、喜多院入り口の標識を見つけた。
前にも来たことがあるはずなのに忘れていた。
川越第一中学校の先に中院の門柱と山門があった。
中に入って驚いた。枝垂れ桜が満開に近い状態だったからだ。
「だから言ったろ。此処は桜の時期がいいって」
先輩は得意気だ。
「本当に素敵ですね」
私はありきたりな言葉しか出てこない。ちょっと悄気ていると先輩が顔を覗き込んできた。
「な、何なのですか?」
「いや、急に大人しくなったからかな? お母さんのことでも思い出したのか?」
「ううん」
そうは言っても、先輩の言葉で又詐欺事件を語る羽目になっていた。
「鎮守様まで現金を袋に入れて持って行ったんだって」
「息子さんだったら普通家に持ちに来るよな?」
「家には父がいるから……ね。だから外での受け渡しなんだと母は思ったの」
「でも、結局詐欺だと気付いたんだろ?」
「そうよ。お金を渡す少し前に、急に行けなくなったって電話があったんだって」
「それでも渡した?」
「そうよ。悪い? 母はその時詐欺ではないのかと思い始めたの。だから家に戻って息子の安全を確認してから110番に通報したのよ。すぐに捕まるって確信したからよ。地元の警察を信用したの」
「警察はすぐに来たの?」
「来るには来たんだけど、全然動かないんだって」
「何で?」
「詐欺事件だからよ。刑事が母をバカにして、逆探知機で遊んでいたんだって。その内に犯人から電話があって、『用意が出来てないから出ないでくれ』って言ったんだって。でも『きっとこれで掛かって来ないでしょう』とも言ったんだってさ」
「何なんだ、その刑事」
「でしょ? だから母は怒ったのよ」
私は母から聞いたことを話した。でも私も刑事の母を小馬鹿にした態度が許せなくなっていた。だから先輩に話したのかも知れない。
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