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「だってこの本、発行が平成2年よ。昭和は確か64年まであって、その年が平成元年。だから63年はその前の年で、そんなに経っていないってことじゃないの?」
もうドキドキだった。それでも冷静さを装った。
「えっ!? それは言えてるな」
「でしょ? だから一緒に川越で遊びましょ」
「お前、遊びだったのか?」
先輩の言葉を聞いてドキッとした。実は、それが私の本音だったのだ。
「あははは……。俺達は似たようなもんだったのか?」
「先輩と一緒にしないでください」
「俺が見ていたのが平成2年なら、お前さんのは?」
「私のは、昭和57年6月30日に初版第1刷発行となっていますが……」
「ってことはみんな古いな」
その言葉に頷くしかなかった。
「取り敢えず二班に別れよう。それがベストだ」
強引に言い切る先輩が憎たらしい。とは言っても、一人でアチコチ散策出来るのは嬉しい。私は何時の間にか、先輩のペースに乗せられていたのだ。
それでも、お祖父さんのための川遊びだったらさっき行った神社の張り紙のイベントで充分だと思っていた。あの素敵なイベントの正体をまだ私は知らなかったからだ。それが策略とも知らされずに……
私は不信感を抱くことになったのだった。
「ごめん。さっきは。実は、俺も川越の蔵造りがどうして出来たのか調べようとしたんだ。明治26年の大火災で後のことなんだ」
「もしかしたら、あの新河岸川で蔵造りの物資を運んだから?」
「良く解ったな」
「だって本に書いてあったよ」
「あっ、そう言えば書いてあったな? それを知って、新河岸川に興味を抱いた訳だ」
「なあんだ。実は私もなの。だから、一緒に調べてもいい? あっ、勿論川越の人気スポットも網羅するけどね」
「そうだな。よし、それで行こう」
私達は何とか、其処まで辿り着けたのだった。
「ところで、どんな企画を考えているのですか?」
「ホラ、船着き場近くの神社に船があっただろ? あれで幾つかの川港を巡れないかと思っている」
「それ、凄くいい。町おこしになること間違いないと思う」
私は思わず言っていた。そうは言っても難航するだろうと思っていた。
実は新河岸川は護岸整備のお陰で船が川底にあたってしまうのだ。
その事実は、今読んでいる本の中にも記載されていたから先輩の目にも止まっているはずなのだ。
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