記憶の桜

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記憶の桜

春の青空が広がる日、少女は高校を卒業した。 大学への進学を控えて短い春休みを満喫しようと、 友達と遊んだりバイトをして過ごしていた。 それでも読書は好きで、週に一度は図書館に通うようにしている。 少女はバスに乗り、図書館側の公園の前で降りた。 天気の良い日にここへ来ると、森林浴ができて清々しい気持ちになる。 数百メートル歩いて図書館に着くと、人影がまばらなことに気が付いた。 ガラス製の大きな扉には「休館」の張り紙がしてある。 今日が祝日で休館だとすっかり忘れてしまっていた少女。 がっくりと肩を落として、大人しく家に帰るか寄り道するか。 ……ふと、あの桜のことを思い出した。 しめ縄の張られた、あの桜を。 ずっと見ていると吸い込まれそうになったことが、忘れられない。 今までは通学路にあったけれど、これからは別方向になる。 どうしても気持ちが引き寄せられる桜に 「さよならをして来ようかな」と、行ってみることにした。
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