記憶の桜

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大きな桜の木は、道路の脇にぽつんと立っている。 薄桃色の花が細い枝を覆い尽くすほどに咲き乱れていた。 少女の足取りは迷うことなく進み、どんどん桜に引き寄せられていく。 すぐ側まで寄ると、今までは感じなかった威厳さもあるように見えた。 その存在感はさすが御神木と言うだけのある、幹の太さを誇っている。 横に大きく張り出した枝の下に、えぐられた傷が斜めに入っていて胸が痛んだ。 長い間そこに付いていたのか、赤黒く変色している。 「今まで全然気が付かなかったな……」 どうしてこんな傷が付いているのか、御神木となったことと関係があるのか。 少女は、桜を慰めるかのように指先をその傷に触れさせた。 その時…… 鼓動が跳ねて、くらりと意識が遠のく。 桜に引っ張られて、桜の中へ入っていくよう。 この感覚は、今まで通学途中に感じていた吸い込まれて行く感覚と一緒だった。 今は受け入れてみようという気になったのは、 傷を負った理由を知りたいという願望からかもしれない。 ふわりと空気が流れて、閉じていた瞼をゆっくりと開ける……。
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