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少年と桜
瞼を開けると、指先に触れていた赤黒い傷は黒褐色になっていた。
「一瞬で色が変わった?」首をわずかにかしげ、じっと見つめる。
視界のはじにある足元には、何かの動く気配がした。
見下ろすとススの染み付いた、古着を着ている子どもが一人。
「さっきまでいなかったのに……?」
それも気になったけれど、目を開けてから騒音がすごかった。
爆撃機のような飛行する音が、地をゆらす程に響いてくる。
空を見上げ、その正体を探す。
少女はハッとした……。
先程まで可愛らしい花を沢山付けていた細い枝が、枯れていたのだ。
「えっ?!桜は?」
「!?何だ、お前っいつからそこにいた!……目立つだろ、隠れろ!」
足元にしゃがんでいた少年に、スカートを引っ張られ転んだ。
「何するのっ」
「うるさい、黙ってろ、死にたいのか?!」
声は抑えつつも、怒気をはらみ少女を睨んている。
少年は人差し指で天を差し「空爆だ」と言った。
「空爆?!何言ってるの、この平和な時代に」
少女はそう思ったけれど、遠くの空が真っ赤に燃えているのを目にした。
絶句し、爆撃機の騒音から身を守るように耳を塞いだ。
息を殺し身動きをせずに待つ時間は、とてつもなく長く感じた。
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