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ようやく騒音が止み、二人は大きく溜息をつく。
「教えて、一体何なの?」
少女の問いかけに答えようとはせず、上から下を品定めするように見た。
「……さっきの見ただろ、メリケンの爆撃機だ。
そんな格好でよく生きてここまで来たな」
「メリケンの爆撃機?」
「日本は戦争中だろ、知らないとか言わないだろうな」
「……今、戦争中なの……?」
「呆れる。どこから来たんだ?」
「私は……そこの図書館に……」
辺りに何もない事は、とっくに気が付いている。
少女はそれ以上、何も答えることはできなかった。
「図書館なんか、とっくに燃えちまったよ」
「……」
「ちくしょうっ!」
拳を桜の幹に突き出そうとするも、少年は力を弱めた。
その変わりにその手の指で、傷を負った桜の幹に触れる。
それは壊れ物に触れるように優しい。
わなわなと小刻みに震えるその指は、土なのかススなのか……
真っ黒に汚れている。
必死に涙をこらえているのか、反対の手で目元を拭った。
それでもあふれ出して止まらない涙は、桜の木の下へ落ちていく。
……ポタ、ポタ……
その時に少女は、一歩引くほどに驚いた。
少年の片足が、ないのだ。
見ると顔はやけどの後なのか、ただれている。
「……っ」
「見ろよ、この傷……」
「…………」
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